七波さんの七月

七波さんが川島さんの性癖に気づいたのは、去年の梅雨開けの頃だった。蒸し暑い梅雨の最中も、川島さんは長袖で通していたが、暑さと日差しかいよいよ厳しくなって、道行く人々が性別や年代に関わらず薄着になり、それでも、外気の熱と湿気にう んざりとした…

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つまり、七波さんは、このマンションに越してきてから一年と三ヶ月の間、浴衣姿の大槻さんと一緒にマンション出て、仕事から帰ると疋田さんの歌声が出迎えてくれる、という毎日を繰り返していたわけで……。「……それ、かえって引っ越したくならないか?」 「最…

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隣人の大槻さんとは、朝の出勤時にいつも一緒になる。 朝の支度を終えて玄関を出ると、ちょうど七波さんと同じように玄関をでた所である大槻さんと、目が合う。 そして、会釈して、方を並べるようにして、マンションをでる。曜日によっては、ゴミの袋をマン…

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「……このマンションね、少し……」 おかしい人が……と、いいかけて、七波さんは、慌てて、言葉を呑み込んで、いいなおす。 「……面白い人が、多いと思うの……」 例えば、二階の角部屋に住んでいる疋田さん。公務員だとかで、毎日、決まった時間にでかけて、帰宅す…

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七波さんがそのマンションに越してきて、二年目の夏、またまた遊びに来ていた彼氏との会話の中で、何かの弾みで、 「……今度の春、契約更新の時期でさぁ……」 と、いう話しがでたのが、きっかけといえばきっかけだった。 毎月の家賃は会社の住宅手当てがいくら…

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七波さんは、独身女性向けの物件、に住んでいる。少なくとも、入居時に、不動産屋から聞いた説明では、そうだった。 その実態は、単なるワンルームマンションなのだが、大家さんの意向で、単身女性の入居者しか、入れないらしい。このマンションへの入居を決…

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夏目七波さんは、ごく普通のOLである……と、本人は、思っている。 地元の短大を卒業後、就職を機に上京、一人暮らしもこれで二年目になる。今まで特に問題もなく過ごせているのだから、慣れたといえば慣れた……の、だろう。 この年頃で器量も人並みだったの…