ヴァンダル画廊街の奇跡

ヴァンダル画廊街の奇跡 (電撃文庫)

ヴァンダル画廊街の奇跡 (電撃文庫)

一応、未来を舞台しにしてサイボーグとかAIとかでてくるけど、SFというよりはファンタジー、寓話、お伽話の類だな、これは。
考証がなんとかいう以前に、設定にどうにもおかしな点がゴロゴロある。ありすぎる。
「絵画がプロパガンダの道具として全面的に禁止されている」とか、それでいて絵を描くための道具にはそこいらで簡単に入手できたり、とか、「サイボーグになっただけで年齢を取らなくなる」とか、まともに考えればありえねーってか、つっこんだら負け、ってーか……。
作者の無知のせいというより、意図的にそうしうふうに設定したんだ……と、思いたい。
まあ、そういう細かいところはとりあえず置いておいて全般的な部分みてみると、構成がちょっと冗長な部分があるかなぁ、と。
具体例を挙げると、ラスベガスのエピソードは、おそらくヒロインの特殊能力を提示するためのエピソード、ではあるんだろうけど、他のパートとの兼ね合いでみると明らかに浮いている。
あそこだけ独立している、というか……おそらく、明らかに脇筋の、カジノの人々に感情移入しすぎて長々しくなっちゃったのね。いや、「あの章だけ」を独立した短編としてみると、それなりのクオリティではあるんだけど、ヒロインサイドの筋からいうと、伏線ひとつつ張るためにあそそこまで引っ張る必然性は、まるっきり、ない。
世界をまたにかける美術品泥棒ならぬ、強制名画壁画化犯、というシュチュエーション自体は、発想的にもイメージ的にも面白いしv、そこで使用される実在の名画のセレクトや蘊蓄は面白いんだけど(おそらく、本当に書きたかったのは、こっち方面なんだろうな)、そういうことが非合法である世界であえてそういうことをやっている、というヒロインサイドのモチベーションがどっからくるのか、イマイチぴんとこなかった。
いや、本文中ではしかじかである、と解説はされているんだけど、そこにリアリティを感じなかった、というべきか。
だって、その動機……はっきりいって、親父さんの絵を捜す設定と、あんまり関係ないやん。
第一、親父さんの意志がはっきりとわかるのは、親父さんの絵を入手してからだし……それならなんで、親父さんの絵を手に入れる前のヒロインが、「そういう行為」をしているのか……。
このあたりが、どうにもよくわからないんだよなぁ……。
作品全体の雰囲気とかはかなりいいんだけど、細かいところで引っ掛かるところが多い作品だった。