蒼空時雨

蒼空時雨 (メディアワークス文庫)

蒼空時雨 (メディアワークス文庫)

なんか……読み終えてみると、甘甘な展開だったな。結局あれ、「最後に愛は勝つ」的なテーゼというか……。
一話一話切り離してみると、ミスリードとか巧妙な伏線とか暗い過去とかいろいろな要素が混然としているのでなかなか気づきにくいけど、この本の根底にあるのは、あっけらかんとした性善説への信頼だ。その証拠に、どす黒い欲望だと陰湿さとかの負の部分は過去の回想とかにしか出てこない、つまり、「フレームに入ってきていない」わけで、それぞれのエピソードの中で話者をつとめたり顔をだしていたりする人々は、「悪人ではない」ということが前提となっている。
そのへんの善し悪しをとやかくいうつもりはないのだけど……そのことに気づくと、ああ、これは寓話なんだな、と思ってしまう。
ハタチ過ぎのいい大人な色恋沙汰が、こんなに爽やかなだけのわけないだろう、と。
いや、念のためにいっておくと、全体像が見通せるまでは、それなりに面白いんだ。明示している部分、暗示している部分、匂わせているだけの部分、故意に誤解させている部分……を、意図的に演出していて、深読みをする楽しさは、十分に味わえる。
あと……いくらなんでも、過去に因縁のある人たちが狭い場所に集まりすぎだろう、この世界。