#79

「試験休みに突入したので遊びに来ました」
「最近の厨房は、休みの日も制服着用で、おまけにポン刀とAK-47を標準装備しているものなのか。大人とは関係のないところで世界の敵と戦ったりしているのか? お前は?」
「やだなぁ、叔父さん。
 どちらも模型、おもちゃですから、銃刀法には違反していませんよ」
 ついこの間まで小学生だった姪は、そういって「あははははは」と空々しい笑い声をあげた。
「それに、制服姿はまだ生で見せていなかったし、母もタダで泊めて貰うお礼にセーラー服を見せつけてこいと申しておりました」
「身内のセーラー服見て何が面白い」
「叔父さんは昔っから巨乳派だから、あと数年はひとりで泊まりにいっても安全だ、と、母が申しておりました」
 白い夏服をひらひらさせながら、思いっきりお子さま体形の姪がいう。
「……身内ながらの的確な判断、かつ、生暖かい評価をありがとう。
 ついでにいうと、お前の母さんの教育方針はかなりねじ曲がっていると思うぞ」
「とりあえず、冷たい飲み物をお願いします」
 そういって姪はかさばる荷物を部屋の隅に置き、本棚の前にいって、ここ数ヶ月に発行されたマンガだのラノベだのを適当に抜き取っていく。
「それから、お仕事がひと段落したときに、映画とねずみの国にもご案内願います」
 こいつの母、ということは、同時におれの実姉でもあるわけだが、おれがどのような存在である、と、こいつに吹き込んでいるのか、如実にわかる物怖じのなさだった。
 一緒に外出する時をのぞけば、放置しておいても勝手に遊んでいてくれるのが、まだしもの幸いだ。
「……お前くらいの年頃は、普通、親戚のところにくるよりも、同年輩同志で遊ぶもんじゃあないのか?」
 麦茶をグラスに注ぎながら、おれは聞いてやる。
「ええ。
 ですから、叔父さんの都合を聞いて、手が空いたときにあわせて、お友達も呼び寄せます。そして、一緒に映画かねずみの国に連れていって貰います」
「……この炎天下にガキどもの引率をやるのかよ、おい……」
「あの子なら、中学生女子に囲まれれば、鼻の下をのばして喜ぶはずだ、と、母が申しておりました」
 そういって姪は、ひどく大人びた笑顔をみせた。