人間の未来

人間の未来―ヘーゲル哲学と現代資本主義 (ちくま新書)

人間の未来―ヘーゲル哲学と現代資本主義 (ちくま新書)

 わたしの考えはこうである。へーゲルは「近代社会」の理念のもっとも本質的な完成者だった。これに対してマルクスは、「近代社会」の現実のもっとも根底的な批判者であった。このため両者はしばしば思想的なライバルと見なされている。しかし、近代の人間的本質に対する彼らの思想の核は、決して異なるものではなかった。後者は前者が設定した人類的課題を異なるアイデアで更に推し進めようとしたのである。そして、もっとも重要なのは、これに続いた現代思想は、この二人がおいた本質的な社会批判の思想を超えて出てその先に進み出ることができないでいる、ということにほかならない。

ということで、竹田青嗣による、へーゲル的な思想を根幹としてざっと哲学史を振り返り、さらに現代社会や現代資本主義まで検証してみようという趣旨の一冊を読んでみました。
第二章までの「哲学史」を簡単に振り返った部分、それに、第三章の「近代国家」を(わたしにとっては)斬新な切り口で解説した部分も、門外漢としては比較的わかりやすく、それなりにおもしろく読めた。
第三章以降から展開する、まさに「今、現在」の問題に切り込んでいく部分では、ところどころ首を捻る部分もあり。例えば、何でもかんでもヘーベルの思想に接続して説明しようとする部分などは。権力論とか、そこから発展した近代国家論とかは、それなりに納得はできるのだが……。
終盤近く、資本主義の「社会を調整する機能とその弊害」に対する解説も、やはりそれなりに妥当なものだろうと感じた。たしかに「環境問題」などは、覇権的な構造を持つ資本主義では解決できない。
しかし、その解決方法が「合意の普遍性」という、一種の理想主義的な発想を出ていない結論しか出せないあたりが、なんというか、「思想家」の限界であるような気もした。
確かに、それしか道はないようにも思うけど……実際に、うまくいくとは思えない。
為政者や一般市民がみんなそれほど賢く理性的だったっら、誰も飢えないし戦争も起きないよな。