聚楽

聚楽―太閤の錬金窟(グロッタ) (新潮文庫)

聚楽―太閤の錬金窟(グロッタ) (新潮文庫)

これは、かなり面白く読めた。この著者のデビュー作、「信長 ーあるいは戴冠せるアンドロギュノスー」の直接的な続編でもあるが、山田風太郎の「妖説太閤記」とか、先行する伝記物へのオマージュがいっぱいいっぱいで、読んでいて満腹感を、すっごく感じる。
西洋の錬金術と日本の中世史を結びつける……ってのは、「信長」の頃からやっている手法だったけど、デビュー作が「信長」個人を標的にして異化作用を敷衍していたのに対して、こっちの「聚楽」の方は、「歴史」そのものを異化させようと、たくまられているような気がする。有名無名の歴史上の人物がわんさか出てきて、それと、人物だけではなく、歴史上の事件あれやこれやにも、新たな「解釈」でもって語り直される。
もちろん、それは純然たるフィクションなのだが……こっちのフィクションの方が、通り一遍の「史実」よりも、よっぽど面白くね? と思わせるだけの吸引力がある。
「よい伝奇」である証拠である。
しかしまあ、あれだ。
普通、「太閤」といえば、秀吉の方を真っ先に思い浮かべるのだが……そいや、秀次も「太閤」だったんだよなぁ……とか。
功成り名を馳せた、老齢の秀吉とか家健とかが、それでも不遇といってもいい「若き日」のことを思い返す……という構成も、なんか人間くさくて、いい。読んでいてときおり、「このシーンはどこの時代だ?」と混乱するけど。
ちゃんと、あやしい忍者や外国人宣教師は出てくるし、そういったあやしい人物たちが錬金術的解釈によっておどろおどろしく変容した聚楽台に潜入していくクライマックスは、むしろスパイ映画か特撮物みたいな雰囲気だし、伝奇物にあまりなれていない人でも、エンタメとしてそれなりに楽しめるのではないか?
とにかく、誰が主役かわからなくなるほど膨大な登場人物が同時に動いている長大な話しであるから、特に歴史的な知識が乏しい人には厳しいのかもしれないが……そうした短所を考慮に入れても、これだけ完成度の高い伝奇物には、なかなかお目にかかれるものではない。
ちゃんと、「史実」との辻褄もあわせているもんなぁ。立派立派。