完全脱獄

そういや、ジャック・フィニィの「ファンタジー以外」は、これが初めてだな。「ゲイルズバーグ」とか「マリオンの壁」とか、ノスタルジックな作品群はそれなりに目を通しているつもりだったけ。
解説にもあるとおり、この人の「ファンタジー以外」は、翻訳状況がよくないから、しかたがないところはあるけど。
でも、この「完全脱獄」も、クオリティ的には全然、低くなくって、本題の「脱獄」についても、「この手があったか」と読者を驚かせる大きな仕掛があるし、それ以外にも、刑務所内の事情とか運営状況の詳細な描写、監獄にいる兄、その婚約者、その弟の三人の関係をめぐる心理描写など、読み甲斐のあるパートが多すぎるくらいで、筋立てとしてはむしろシンプルすぎるくらいなのだけど、「物語」としての密度は、ひどく濃い。
考えてみれば、この人、もう一方の代表作が、何度もリメイクされている「盗まれた街」なわけで、それを考慮すると、この程度の作品は、書けて当然……なのか。