#52

 ここ何日かはっきりしない天気が続いている。梅雨時なんか毎年こんなもんで、むしろ、連日どしゃぶりになっていないだけましだろうという考え方もあるのだろうが、わたしにしてみれば、ぶ厚い雲が空を覆い、日中でもなお薄暗いこの環境の方も、憂鬱を誘うのに十分なのであった。
 気分がノラないから、といって仕事を休めるほど優雅な身分でもなし、しかたがなく連日、出勤しているわけだが、モチベーションは限りなく低かった。それでも、給料をもらっている以上、片づけるべき仕事は機械的に片づけていくわけだが……などと思いつつ、ふと手元をみると、デスクの上にはA4の紙が数枚散らばっている。しかも、どの紙も、見事に白紙。
 あれ?
 と、ここで唐突に激しい違和感をおぼえる。
 わたしは、そもそも……今、何の仕事をしていたのか?
 と、思ったところで目が醒めた。
 目覚ましを確認すると、鳴る時刻の二分前。
 よりによって……夢の中でまで、仕事をしてなくてもいいだろうに。寝過ごさなかっただけましだったが
……とか思いつつ、わたしは寝袋から這いだして、顔を洗いにいく。
 何しろ、今の追い込みが終わるまで、仕事から逃げることはできないのだから。
 わたしは、もう何日も家には帰っていないし、会社の外にも出ていない。当然、外の天気のことなんて知ったことでもない。モチベーションが低かろうが高かろうが、納期に間に合わせるためには、睡眠時間も削って仕事を続けなければならない。
 それが、今のわたしの現実だった。