#8

祖母から受け継いだ年代もののオルゴールがある。蓋をあけると音が鳴る仕掛けだったが、問題なのは、メロディよりも蓋の裏にある鏡だった。
その鏡には、四年に一度、2月29日だけ、物故した家族の顔が見える。そこのとを発見したのは、十歳の時に事故で他界した、双子の弟だった。わたしたちが八歳の2月29日、その鏡に祖母の姿が現れてた。会話はできなかったが、鏡の中の祖母は元気そうな様子で、目を細めてこちら側のわたしたちを見つめ続けた。
どういう原理かは知らないが、四年に一度の奇跡だった。
十二歳の時には、祖母と弟が肩を並べて姿を現した。十六歳の時には祖母と母と弟、二十歳の時には祖母と母と父と弟が、姿をあらわした。
どういう理屈か知らないが、鏡の中の彼らも相応に四年分くらいづつ年齢を重ねているように見受けられた。物故した人にいう言葉ではないのかもしれないが、外見上はみな朗らかで、息災であるようにみえた。
こうしてみると、わたしは数年毎に肉親を亡くしているわけで、控えめにいっても家族運に恵まれていないといえるのだが……四年毎に彼らの様子を見ることができるので、実のところ、そういう実感もあまり湧いてこない。
そして今日、二十四歳の2月29日、オルゴールを開けると、鏡の中の家族は、非常に驚いた顔をした。
「……こっちでも、家族を増やすから」
鏡には、わたしの家族と二重写しになる形で、ウエディングドレスを着たわたしの姿が映っていた。


はてなハイク超短編より転載。