ダブリンの人びと

ダブリンの人びと (ちくま文庫)

ダブリンの人びと (ちくま文庫)

途中、巻末の「解説と訳注」なども参照しながら、ゆっくりと時間をかけて読み進めていった。一世紀以上前のダブリンを舞台とした本作は、肝心の細部についての知識が心許ない、ということはもとより、小説作法的な面でも今日、わたしが想定するところの「小説」とは、かなり差違がある。相手の文法やセオリーを手探り足探りで踏み固めながら時間をかけて読み進めていく……という読み方は、個人的な価値観でいえば、決して嫌いではない。というか、基本的に無教養なわたしが古典をまともに読もうと思えば、必然的にそういう読み方になる。
まあ、ぶっちゃけ、現代日本人の感覚でいうと、当時のアイルランドの階級とか宗教とか貧困とかの感覚は、正直、よく分からんというのが本当のところなんだけど、解説とかの情報を参照しつつ補完しつつ読んでいく。
基本的に、物語自体にはそんなに大きな起伏はなく、様々な年齢、階層の「ダブリンの人びと」の日常の一場面を切り取って活写したような内容が多い。
そう。ストーリーはあまり重要ではなく、書かれた内容と様式との比重が大きい。「小説」が「詩歌」より文芸の文芸だった時代の産物であり……この辺は、翻訳ではなくて、原文を直接読むことができれば、より明確に分かるのだろうな。