「タダ見=フリーライダー」についてのいくつかの覚え書き。あるいは「グレーゾーン」についてのいくつかの実例。

以前に起こした当blogの「[web][ネタ]ニコニコ動画のアニメ収支状況関連のエントリを適当にいくつかピックアップしてみるよ」というエントリには、思いの外(いや、こういう地味でほぼ注目されることがないblogにしては、ということ何ですが)注目を集めたみたいで、いくつかのメジャーなblogさんからもリンクをして貰ったし、はてぶの数も多かった。
で、そういう風に注目を集めた時の常として、滅多に来ない知り合いでもない第三者コメントもいただいたのだが、その中の一つ、
とーりすがり 2007/11/01 21:19
どんなにニコ動よりの記事を書こうと、ニコ動が違法アップロードによるコンテンツで満たされてるのは事実です
つーか、管理人はニコ厨だったのか・・・

というコメントをいただいた。
いや、別にニコ厨でも何でもいいんですが、その「違法アップロード」っていうときの「違法」って、あくまで現行法での話しでねえ。現行の「著作権法」って、まだまだ穴だらけで時代遅れの、不完全なものだしなぁ……。
例えば、「他者が権利持つ著作物をアップロードするのは違法。
だけど、それを視聴することは合法」
なんてのは、「矛盾」以外の何物でもないでしょう?
そんな穴だらけの法に盲目的に従う義理も義務もないから、わたしは、利用できるモンは利用させて貰ってますけど。ええ。ありがたーく。
もちろん、「とーりすがり」さんのように「悪法も法」なりであくまで法を遵守する、という考え方を否定するわけではないですが、だからといって、そうした硬直した思考に同調せねばならない理由も当方にはございませんな。
それに、製作会社側もこうした環境に慣れてきているのか、ニコニコ動画にアップされる動画に対してどう対処するのか、という方針が、最近では、会社ごとに明確になってきているようです。動画の検索・判定ソフトが開発されて、以前よりも管理が容易になってきた、というのも、背景にはあるでしょう。
だから、法の整備よりも、「落ち着くべき所に落ち着く」、つまり、「慣例として」グレーゾーンの範囲が定まり、ユーザーも著作権保持者も、その状況に慣れてしまう、というところまで事態が進んでしまうことの方が、たぶん、早いと思いますよ。
あと、こうした「グレーゾーン」は、やはり狭いよりは広めに確保しておいた方がいい。長期的に見て。これは、自分がフリーライダーを楽しみたいから……というだけではなく、「文化の伝播」ということを考えると、金のない年少者にいかに良質のコンテンツを見せていくか、ということが、次世代以降のクリエイター育成に大きく関わってくるからでもあります。
いくつかの実例をあげると……。
・ヨーロッパの某劇場の話し。
古代に作られた、石作りの野外劇場。もちろん、「遺跡」ではなく、現代でも演劇が上映される、立派な「現役」の劇場です。
そこでは、正規に席料を取る座席とは別に、外から「只見」ができるスペースがあって、運営者側も、歴史的に「黙認状態」になっている、という話し。
あと、似たような話として、コンサートホールなどでも、金のない学生向きに、格安の料金で「プロの実演」を見ることができる場所を確保しているところが多いそうですね、向こうでは。
無論、そういう無料ないしは格安の席は、正規の料金の席とは環境的にも格差がつけられているのでしょうが、「あえて抜け道を造っておく」という、そういう文化があるんでしょう。
・近代以前の日本での話し。
明治以前、開花以前は、日本には「著作権」という概念はありませんでした。
だから、江戸時代に出た冊子なんかは、もう、あちこちでコピーのし放題。ちょっと売れそうな本がどっかで出回ると、すぐに全国に飛び火して、コピー本が乱舞する。
当時の、つまり和綴じの本は、版画で刷った紙を二つ折りにして紐で綴じただけですから、バラスのもコピーするのも極めて簡単でした。綴じている紐を解けばページはバラバラになり、その一枚一枚を取りだして、裏返しにして版木に貼れば、そのまま彫って版下になる。
黄表紙滑稽本などの「娯楽作品」の他に、和算の教科書や問題集(意外に、江戸時代には難しい問題を出したり解いたりすることが流行していた)、地域の図説や紀行文、作物の上手な育て方や品種改良の方法、お上に対する揶揄や上奏書、みたいな硬い内容のものまで、需要がありさえすれば、ぱっと全国に広がった。
識字率の高さと、著作権がまだない、という要因がなければ、こうした情報伝達の効率の良さは、当時の技術レベルや経済状況から行っても、ちょっと考えられない。
以上の例から見ましても、次世代、あるいはもっと先の世代への文化の伝達、ということを考えると、何もかも順法で几帳面に四角張っているよりは、違法合法の線引きが難しいグレーゾーンをあえて広く取っておいた方が、長期的に見て絶対に有利だと思いますけどねぇ……わたしは。
金のない若いうちから、多種多様なコンテンツを目にする機会があった方が、当然のことながら目が肥えるし、クリエイターの育成にも効果が高い。あと、大きくなって、自分でお金を出すようになった時に、いい顧客になってくれる可能性も高い(笑)
本気でアニメとかマンガとかを「産業」として、これから先も育成したいのなら、目先に利益に囚われて、無闇に締め付けを厳しくするばかりが良策とも思えないんだがなぁ……。