p2p技術と著作権。

最近、いろいろと話題になっている「Winny有罪判決」について。
これについては、いろいろな意見を目にしましたが、一番納得がいったのは、
Winny事件判決の問題点 開発者が負う「責任」とは」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0612/17/news002.html
で、寄稿された、「白田秀彰」氏の意見。

(前略)
 さて、話が刑法の領域の話ということになると、次のような背景を理解しておいてもらいたい。

(1)警察は、処罰を与える法律の条文に記されている条件(=構成要件)に合致した行為をしたと疑われる人(=被疑者)を逮捕しなければならない。また、逮捕の理由となった事実について書類を作成し検察に報告しなければならない(=書類送検)。それが仕事。

(2)検察は、被疑者を逮捕した警察から送られてきた理由や証拠を検討し、それが構成要件に合致していると考えたなら、裁判所に検察の判断が正しいかどうかを検討してもらわなければならない(=起訴)。それが仕事。

(3)裁判所は、起訴内容について検察から説明をうけ(=冒頭陳述)、被告人や弁護士などからも意見や証拠などをうけつつ(=証拠調べ・証人尋問)、起訴内容の信ぴょう性や検察が主張している罰の重さ(=論告求刑)が妥当かどうか検討し、適切な理由に基づいた適切な罰を内容とする判決を下す。それが仕事。

(4)裁判所は、提出された事実とされている事柄について、証拠等から信ぴょう性を判断し、法廷内で採用された「事実」に基づいて判断する。だから、検察と被告側のいずれもがそれぞれ「真実はこうなのに……」と思っていて、仮にそれが真実であるとしても、証拠によって立証されなければ、裁判においてそれら真実は存在しない。だから、もちろん刑事裁判というのは真実を追及して判決されるよう努力しているのだけど、実際には手続きを経て採用された「事実」に基づいて判決される。

 だから、証拠によって裁判官を説得しきれなかった「真実」があるからといって、「不当だぁ!」とか「裁判官はアホだぁ!」と言われても、それは裁判官が気の毒というものだ。裁判は「遊戯王」とか「ポケモン」に似ているところがある。カードが揃わなくて負けたら、それはカードを揃えられなかったほうが悪い。こうしたゲームにおいて、裁判官は公平な審判者でなければならない。「大岡裁き」とか「人情判決」というのは、近代の裁判制度においては、法律の機能を狂わせる害悪にしかならない。
(後略)

「法律とか裁判って、無罪になる材料を揃えられなかった時点で負けなんだから」ということである。
ただし、この「白田秀彰」氏、完全に司法側の味方、っていうわけではない。そもそも「現行の著作権という概念は、まだまだ議論の余地がある不完全、未発達なものだ」という意見の人だから。
その辺のことについては、この方の著作、「インターネットの法と慣習」に詳しく描かれているので、興味ある方はそっちを読むこと。

悪法も法なりで、でもその法廷で勝つべき準備を怠っていたのだから、敗訴してもしゃーないんじゃないの」という意見である。
その文脈でいうと、下記にある、
「「徹底抗戦する」――Winny開発者、控訴へ」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0612/13/news061.html

 金子被告は「公開時にはWinnyで違法ファイルをやりとりしないように言ったし、2ちゃんねる上でもそう言ってきた。裁判で、違法行為をあおるような行為はなかったと認定されたの点は良かったと思う。罰金であっても有罪判決というのは不服。徹底抗戦したい」と述べた。

 「裁判では、わたしが積極的に著作権違反をまん延させたのではない、とは認められたが有罪だった。やるべきことをやらなかった(著作権侵害のまん延を止めなかった)不作為が問われているような気がした。それは論点がおかしくなっているのではないか。わたしはいったい何をすればよかったのか、いまだに分からない」

 弁護団長の桂充弘弁護士は「判決は、Winnyのどこがいけないのか価値基準を出さずに、検察のストーリーに乗った形。良いか悪いかを検察や警察が事後的に決めるのは問題」と述べた。

 弁護団事務局長の壇俊光弁護士は「技術の有用性は認められ、検察の『著作権侵害を意図的に助長させた』という立証も打ち破ったので無罪のはず。だが有罪になった。なぜ日本は、自分が作ったものを誰かが悪用しただけで有罪になるのか」と強い調子で語り、米国のP2Pソフト「Grokster」の無罪判決などを引き合いに、判決の不当性を強調した。

 「裁判所は『不特定多数が悪いことをするかもしれないと思って技術を提供したらほう助だ』と言ったが、では高速道路はどうか。速度超過など悪いことをしている人がいっぱいいるが、国土交通省の大臣はつかまるのか」(壇弁護士)

 「ファイル共有はみんなのインフラになっていないから偏見がある。ファイル共有が高速道路のようにインフラになった10年後に同じことが言えるのか強く疑問。高裁では、不特定多数が悪いことをすると認識していたら罪、という原審のテーゼを打ち砕くために頑張る」(壇弁護士)

など、あげられている「抗戦理由」は、「今回の法廷の争点としてみれば、ちょっと文脈的にずれているね」ということになる。
こういうこといいだしたら……そもそも現行の「著作権」は、P2Pどころか、電子データのように、著作物を容易にコピーできる技術がまだなかった頃の産物で、はっきりいって、現代の状況にまるっきりフィットしなくなってきている。
「どうして商品として流通されている著作物が、著作者に無断でフリーで出回る」という現象は、たとえWinny前面使用禁止になっても、別の方法で流通するだけで、さして事態は変わらないと思う。
「判決の前後で、Winnyの利用数は、さして変わらなかった」というレポートもある。
ソース:
Winny判決後もノード数変わらず――ネットエージェント調査」
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0612/15/news080.html
一番いいのは、こうした「無断コピーがあっても、それなりに著作者への課金が発生するシステム」を構築し、多少なりとも「見返り」が発生するシステムとか法整備を行うことだと思うのだが……難しいのかな?
面白いのは、機能たまたま見つけたエントリで、
はてな著作権侵害幇助に問われる日」
http://scientificclub-run.net/index.php?UID=1166045950

 つか、はてなさんもこれを利用してますぜ? ヒデオキとかありますぜ? へたすりゃはてな非合法化ってことですぜ?

 個人的にはWinny事件そのものは「公安」という見地からみたP2Pの問題に、著作権による統制を強めたい企業側+αあたりの思惑がくっついたものだと考えているけど。それにしても重すぎる判決だと思う。
 司法に限った話じゃないけど、日本という国は法治の外見を完璧に整えた人治国家だからね。こんな不透明なシステムにこんなに範囲の広い罪状認定が起きちまうと正直不安でしょうがない。

と、「司法側に、公安の圧力がかかっている」という意見。
面白い意見だな、とは思うが、日本の公安関係の実態をよく知らないので、この話題の真偽を詮索する能力は、わたしにはありません。
ビデオキyoutube著作権法違反であり、幇助罪が成立する」とは、まったくその通りなのだが、わたしは別に気にしない。
だって、そういうのきっちりやりすぎても、正直な話し、誰も得しないのだった。
例えば、こういうコンテンツがあるんだけど、
空耳ケーキよつばと! Remix :

これ、一応、オリジナルの著作物だけど、音楽に関しては他人の著作物をそのまま利用している(利用していなければ、意味がないタイプのコンテンツである)
あと、構図や動きのタイミングにしてもTVアニメ版「あずまんが大王」そのままのパロディなんだよね。
実際に見比べてみると、再現度がわかる↓

ちなみに、この「空耳ケーキよつばと! Remix」というFLASHの作成元さん
http://tyatyamaru.chu.jp/
では、このコンテンツ、「公開終了」になっています。
著作権も、厳密に適用すると、こういう楽しい作品も見れなくなる、というわけで、そういう窮屈なのも逆に面白くないんじゃないかな……と思うのだけど……。
まあ、法律をいくら厳しくしたところで、ユーザーの意識が変わらない限り、この手の「無断流出」は減らないでしょう。
現実問題として。
でも、そういうこといったら、「本」なんかさ、「図書館」という無料で読める施設があっても、商業的にペイするシステムが何十年も前からできあがっているわけでしょ?
「無料でも鑑賞できる」というのと、「お金を払って鑑賞もできる」という二種類の環境があって、なおかつ、「是非、お金を払いたい」とユーザーに思わせるコンテンツを用意できなければ……法律的にどうであろうと、これからのメーカーは厳しいんじゃないでしょうか?
あと、こんなニュースもあるんだよね。
「米タイム誌が選ぶ今年の人、2006年は「あなた」」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061217-00000985-reu-ent

 [ニューヨーク 16日 ロイター] 米タイム誌が16日、毎年恒例の「パーソン・オブ・ザ・イヤー(今年の人)」に、2006年は「あなた」を選んだと発表した。
 ブログや動画投稿サイトのYouTube、それにソーシャル・ネットワーキング・サイトのMySpaceといったインターネットのユーザー自身が作り出すコンテンツの爆発的な広がりとその影響力を評価したもの。
 選考の理由について、同誌のレブ・グロスマン氏は「グローバルなメディアの手綱を握り、新しいデジタル民主主義を支え、無報酬でプロ顔負けの仕事をしている」と説明した。
 「パーソン・オブ・ザ・イヤー」が掲載された同誌最新号は、18日から各地の店頭に並べられた。同号の表紙は鏡仕立てになっており、雑誌を手に取った読者一人一人の顔が映るようになっている。

著作権侵害も、悪いことばかりではないわさ。