となり町戦争

しっかり文学しているなぁ。不条理な状況の中で右往左往する個人、というテーマはなんとなくカフカっぽいけど、カフカの背景世界はあくまで「訳の分からない不条理さ」、こっちのは、同じ不条理でも「明晰でシステマティックな力が日常的に行使される世界の不条理さ」なんだな。あくまで決められた法律道理に戦争しなければならない「お役所」、そのお役所を規定する「社会」、その社会を動かす「因習」や「資本主義原理」などなど。一つ一つのパーツは、実は結構単純な原理で動いているんだけど、それが絡まり合うと途端に複雑になりすぎてわけがわからなくなる。
「戦争らしくない戦争の物語」ということで、少し前に読んだモームの「秘密諜報員」を少し連想した。いや、作風とか構造とか、全然、似つかない作品なんだけどさ、「戦争」という大局のなかでも、その中で動いている人間は、実は平時と同じくせこかったりみみっちかったりする、というあたりで、ちょっと連想した。
文庫書き下ろしの中の「別章」で、あるキャラクターがいう「戦争と日常を切り離して考えるのは、とても危険なことだと思う」という台詞は、劇場版のパトレイバー2やね。


  「あなたはこの戦争の姿が見えないと言っていましたね。もちろん見えないものを見ることはできません。しかし、感じることはできます。どうぞ、戦争の音を、光を、気配を、感じ取ってください」
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