15×24

15×24 link three 裏切者! (集英社スーパーダッシュ文庫)

15×24 link three 裏切者! (集英社スーパーダッシュ文庫)

 とりあえず最初に、このシリーズ全体のことについて少し語っておきましょうか。なに、そんな大仰な話しでもない。一読者としてどうやってこの作品を読んできたのか、ざっと説明しておこうってだけのことなんですが。
 一応、刊行した端から順次買って読んではいた。
 ただ、六巻分冊を四ヶ月にわたって連続発売って形式が(わたし個人にとっては)あまりよろしくなかった。全体の分量が長大なのはまだしも、登場人物数が大きく、しかも、それぞれ勝手に同時進行であれこれ動いていく複雑なプロットの作品だから……あー……ぶっちゃけ、一月とか間があくと、誰が誰だかキャラクターの区別がつかないわ、前に読んだところでどこまで自体が進行していたのかうろ覚えだわ……。
 おれ、頭わりぃー。
 で、一応、この年末年始休みの時点で全編読了していたんだけども、どうも細かい読み落としが多々ありそうな気がして、どうにも気分的にすっきりしない。
ましてや、新城さんの作品でしょう。
「星の、バベル」とか「サマー/タイム/トラベラー」とかでもそうだったけど、「きっちりと結末をつけている部分」と「あえて真相を明示せずぼんやり暗示して放置している部分」が混在していて、膨大な情報量のなかで分別なしにごっちゃになっている。
サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

 なんといいうか、実に、読解のしがいがある難物なんだな。
 で、今度はひとつ、間を置かずにもう一度一気に通読して、コレがいかなる物語であったのか、片鱗でも掴め……たらいいな。
 長くて登場人物が多く(なにせ、主人公格だけでも15人いる!)てプロットが複雑に入り組んでいる作品なので、内容を説明するのが難しいのだが……雰囲気を掴んで貰うために序盤だけでも少し詳しめに説明しておきましょうか?


「2005.12.31,07:49-07:59」、「ネットで知り合った誰か」と死ぬことを目的として徳永準が家を出て新宿駅に向かうことろから物語ははじまる。
 前後して、「死を身近に体験するために」自殺志願者用の掲示板を設置した伊隅健治(たまたま、徳永準と同じ学校に通っている)がこっそり徳永準の後をつけはじめ、新宿駅で徳永準から財布と携帯をピケってしまった渡部亜希穂は、携帯の送信フォルダに、自殺をほめのかす遺書メールが残っていることに気づく。もうひとりの主要人物である笹浦耕も「パート1」の時点で登場しているのだが、目覚めたばかりで意識が朦朧としておりメールが来ているのかいないのかよくわからないし、この時点ではまるで何の役にもたっていない。
 徳永準は携帯を操作中、渡部亜希穂と衝突して誤ってかきかけの遺書メールを送信してしまったのだが、携帯と財布を渡部亜希穂にピケられていたのでそのことには気づいていない。おまけに、渡部亜希穂ともみあっているところをガラの悪い自警団に目撃され、痴漢と間違われて身柄を拘束されてしまう。
 誤って送信された徳永準の遺書メールは、コピーにコピーを重ね、またたく間にか「徳永準捜索隊」ともいうべきものが出現する……のだが、そもそも、偶発的に動き出した烏合の衆であり、お互いのこともよく把握していないまま、おのおの勝手に動き出しているので、彼らが合流するのはかなり後になる。
 メールを受け取り、それぞれの理由で勝手に徳永準捜しに動き出す多彩な面々をよそに、マックで藤堂真澄を団長とする自警団に動きを封じられている徳永準、その徳永準を同じ店内で見張っている伊隅健治は、予定外の足止めに苛立っている。
 徳永準は心中相手の17に連絡したいのだが、携帯を紛失している。伊隅健治は、徳永準捜索隊関連のメールが次々と着信する中、肝心の徳永準が動かないでいることに不安を覚えている。
 そして、ようやく自警団から解放された徳永準はその足で地図を求めにコンビニへ。伊隅健治もその後を追い、コンビニに入ったところで、でていった徳永準と入れ違いに入ってきたコンビニ強盗と遭遇する。コンビニ強盗、三橋翔太は、伊隅健治の携帯を取り上げ、自殺予告メールと徳永準捜索隊のことを知り、何故か、伊隅健治をせきたてて、警察に追われながら一緒に徳永準の捜索をすることになる。
徳永準の携帯をピケッた渡部亜希穂、その携帯にかけてきた枯野透と(声だけで)接触。何故か、声だけで枯野透に過剰な信頼感を抱いてしまう。
 携帯をなくした徳永準は、ネットカフェに入ってそこから「17」にメールで接触。予定通りに動けない、もうすぐネットにつなげなくなる、という「17」から今後の連絡方法を尋ねられた徳永準は、「自分のブログにコメントを」と返答。
 徳永準の捜索を開始したうちの一人、在所惟信は、左右田正義の指示にしたがって徳永準の自宅へ。そこで「新宿から三十分以内」などの書き込みがなされた地図を発見する……。


 といった具合に、心中メールのはいった携帯をたまたま盗んだ女子高生がうっかりそのメールを送信してしまったことから関わり合いになる登場人物が増えていき、その心中をとめようとするもの、完遂させようとするもの、なんだかよくわからないうちに巻き込まれているもの、この騒ぎを利用しようとするもの、無関係の人物や事件も絡み合って、先にいくにしたがって物語も複雑さを増していく。
 しかも、でてくるヤツラが総じて複雑な背景を持ち複雑な人物造形がなされていて、一癖も二癖もあるようなのしか出てこないもんで、「コイツとコイツがであったら」どういう反応が起こるのか、正確に予測ができない、という面もある。
「複数の主人公が集合離散を繰り返して複雑なプロットを紡ぐ」という点は「八犬伝」的だし、「無邪気に冒険を楽しむ年少者の前に悪意の持ち主が現れる」という展開は、ハックル・ベリーだかトマス・ソーヤだかみたいだし(インジャン・ジョー的な「否定しようがない悪の具現化」キャラが出てくるんだよな、これが。こういう人物造形は、最近では珍しいと思うのだけど)、終盤にはいって、リアルな「現代の東京」を縦横に移動していた中盤までとは違った幻想的な舞台や展開がはいってきて驚かされたり、物語内で提示されているけど解答は与えられていない「謎」が少なからずあるオープンな構造だったり……と、今までに書かれ語られて数多くの物
語群の中から魅力的なエッセンスだけを摘出、精選してブレンドでもしたような、ハイブリット的、キメラ的な物語だった。
 また、十五人の主人公格の一人称が、各断章ごとに切り替わる……という構成も、ややこしさを増大させる一端となっている。
「ええっと……この時点で、ほかのヤツラはどこいにてなにやっているんだっけ?」
 みたいな疑問に囚われて既読のページを確認しにいったのも、一度や二度では効かないのだった。
 で、読み終えてみると、長さ以上に複雑さが、「何度も迷子になる」迷宮じみた複雑さ以上に、主要な十五人がその時その場に何を感じ考え、どう判断して行動したのか、という一瞬一瞬が印象に残る。最後になんか「多数決」みたいなことをやるシーンもあるんだけど、そうして得られる「結末」よりもそこに至るまでの「過程」の方が、ずっとスリリングで面白かった。
 こういう作品は、できれるだけ長ーい期間にわたって、コンスタントに売れ続けて欲しいですね。