ノルンの永い夢

ノルンの永い夢 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

ノルンの永い夢 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

新人賞を受賞したばかりの作家、兜坂亮がなんだかわからないうちに公安みたいなのに目をつけられて……という2001年を舞台にした前半部、というより導入部分も十分に面白かったのだが、本間鐵太郎を主人公とした1936年以降のドイツを舞台にしたパートが、ことに、後半から終盤にかけての、「本来の歴史」からどんどん逸脱していくドイツの変容が、描写が、圧巻。特にラストの方になると、いくつもの時間軸をまたにかけ、比較的短く章をわけて区切っていくので、読んでいる方は頭がくらくらしてくる。
時間SFには、こういう悪夢的な幻惑がなくては、面白くない。
現代編と過去編、別々のプロットが同時進行していく構造なのだが、もちろん両者には登場する人物やアイテムやら理論やらが複雑に相関している。で、現代と過去、どっちのパートも、ストーリーテリングでは手抜きなしでリーダビリティは、どちらも遜色がないくらいに、高い。いや、どちらもディテールがしっかりしているので安心して読んでいるいられる。
時代考証なんかもかなりきっちりしていてリアリティがあるし、過去のパートには実在した歴史上の人物も多数登場、虚実が混合する面白さも味わえる。
あの時代のドイツ周辺、といえば、軍人や政治家、科学者などにも面白い人物が目白押しなのだ。
こういう歴史変革物を正面からやってくれる作家って最近ではあんまりいないから、尚更面白く感じたな。