#170

 何年か家で寝て暮らしていたらあまりにも親が泣くので、適当に働き口を見つける仕儀となった。やはり好条件で、とはいかず、おれは毎晩一晩中、河童を酢飯と海苔で巻く簡単なお仕事に従事している。
 何故、河童が当然のように実在するのか、どこに出荷されるのか、誰がこの「河童巻き」を消費するのか、などなど、疑問は尽きないわけだが、そんなことよりも少しでも効率よく河童を巻いて行かないと与えられたノルマをこなせないので、ただでさえ低時給なのに、そこからさらに減給の対象にもなりかねん。
 好奇心の解決や疑問を解こうとするよりも、酢の匂いが充満する工場内でせっせと手を動かし続けねばならないのが、おれの現実だった。
 あるとき、雑談のおり、親にそんなことを話してみると、「世間てのはそんなもんだよ」と、したり顔で諭された。
 親が認識する「世間」とは、理不尽なもので構成されており、そのことになんの疑問も抱かない人間のほうが、おれなんかよりもよっぽどうまく社会生活に順応できるのだろう。