#81

「おやまぁ」
 きっちりと和服を着込んだ五歳くらいにみえるおかっぱの女の子が縁側の日陰で突っ伏しているのをみて、わたしは思わず声をあげた。
「下山さん、ひょっとして、この子、例の?」
「そう。
 例の」
 下山さんは、無邪気な悪戯っ子のようなほほえみを浮かべた。
「この子も暑くなると、姿を隠してるのがおっくうになるみたいね。
 この子がいるだけで株価があがるし、姿を見せた時には、ジュースとかかき氷とかお供えするんだけど……」
 そういって立ち上がろうとする下山さんを手で制して、わたしは台所に向かった。昨年末に下山さんが膝を悪くして以来、わたしは、ご近所のよしみで頻繁に手伝いに来ている。文字通り、「勝手しったる」というやつで、台所のどこに何があるのか心得ているし、下山さんもわたしが厨房に入ることを快く承諾してくださる関係だ。
「……座敷わらしも、夏バテになるんですねぇ……」