#78

 アパートの前で知り合いが半ば干からびかけていたので、ずるずる引きずってユニットバスの中に放り込み、そのまま蛇口をひねってやった。
 そのままバスルームから出て、冷蔵庫から缶ビールを取り出してプルトップをあけ、一口飲んでから冷房を入れる。
 室温が少々まあまあ我慢できるところまで冷えてきた頃、
「いやー。
 すまんすまん」
 とかいいながら、なんとか蘇生した友人が濡れネズミのままバスルームからでてきたので、バスタオルをなげつつ、
「濡れた服のまま出てくるな」
 といってやる。
「今、着替えを出してやる」
「脱ぐ脱ぐ。
 今すぐ脱ぐよ」
 といいながら、友人はその場で濡れたTシャツとジーンズと下着を、ぱっと脱ぎ散らかした。
「お前はもう少し、慎みという概念を学習した方がいい」
「まま。そういわずに。
 こっちにも一口……」
 バスタオルを体に巻いただけの友人は悪びれずにそういい、手にしていた缶ビールを横取りしようとする。
「……その前に……」
 おれは、友人の手から缶ビールを遠ざけ、いってやった。
「まず、この間たてかえてやった飲み代、払え」
「……いけず……」
「抱きついてくるな。
 こっちまで濡れるだろうが……」
 とかいいながら、友人が抱きついてくるが、軽く身をかわすと、友人は何事かを訴えるように上目づかいでじっとおれの顔を見つめた。
「……冷蔵庫から、新しい缶、出してこい……」
 一分ほど睨みあった結果、例によっておれの方が、折れた。