夜は短し歩けよ乙女
- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/12/25
- メディア: 文庫
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断続的に「乙女」の視点から語られる断章が挿入されるものの、「先輩」の視点で語られている部分はそれまでの森見作品と同様の、「少し冴えない京大生の自意識過剰な片思いの一人語り」そのもの。どこか日常性とペーソスを含みながらも当然な顔をして突拍子がないことが平然と起こる虚構的な時空間は、森見作品では実にお馴染みの光景だ。
この作品では、そのお馴染みの要素に加えて、懸想される側である「乙女」の側から、同じ時期に起こっている事件のあらましをほぼ交互に語る……という構成を採用している。これによって、従来の作品と同じようなことを反復しているのにも関わらず、それまでにはなかった「柔らかさ」と「甘酸っぱさ」が加味された。
主人公である「先輩」と「乙女」とは、ときにニアミスを繰り返しながらもだいたいのところ盛大にすれ違いを続けるのだが、一番最後の第四章にいたって、ようやく「乙女」の方から「先輩」に合いに出かける。
最後の最後でそれまで進展のなかった色恋沙汰が一気に……というのも、実は森見作品の中の黄金パターンだったりするのだが、従来の作品では「めでたしめでたり」というハッピーエンドな結末を付け加えるため、唐突にそうなったような印象を受けてしまう。
その点、この作品では「そうなってしまう課程」が多少なりとも段階を踏んで書かれているので、展開としては「不自然さ」がかなり減じている。
個人的なことになるが、ラスト近く、「先輩」も「乙女」も、初デートにいく準備をする傍ら、「あのとき、相手はどんな体験をしていたのだろう」と「相手の話し」を聞きたがる部分に、しょっとぐっと来た。
様々な出来事をほぼ同時に体験しながらも、ともにはいなかったため目撃/体験できなかった部分を補い合おう……と、そうと意識はせず、二人でほぼ同時に思っている……というシュチュエーション。
これほど、「物語」の機能を十全に説明したシュチュエーションは、そうそうないのではないか?
わたしが、読了後、直ちにイタロ・カルヴィーノの「冬の夜ひとりの旅人が」を想起したのは、このシーンに拠る。
- 作者: イタロカルヴィーノ,Italo Calvino,脇功
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1995/10
- メディア: 文庫
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