残酷号事件

残酷号事件 the cruel tale of ZANKOKU-GO (講談社ノベルス)

残酷号事件 the cruel tale of ZANKOKU-GO (講談社ノベルス)

このシリーズ、最初の「殺竜事件」こそ読んでいたけど、それ以降なんとなくスルーしていた。で、たまたまこの最新刊を書店で手にとってぱらぱらとめくってみたところ、なかなか面白そうだったの早速購入、一気に読了。
「……種別は怪人、名は残酷……」。
これは、正義の味方の物語、なのだ。「残酷号」と呼ばれる「弱者の見方」が、どのように成立したのか……という物語。
登場するのは、残酷号の素体となるサトル・カッツ。
誕生の場に居合わせたことで残酷号の支援を担当することになるロザン・フェイーダとその護衛、ネーティス。
残酷号誕生の契機となる呪術兵器実験を立案、主導したレギューン・ツィラス、そのパトロン兼恋人兼傀儡、貴族、トリニテッタ姫。
別個の立場で残酷号の謎を追う仮面の戦地調停士ED、大国の軍事技術研究家、ディン・ジョルドォ。
時間軸を前後して短い挿話を積み重ねることでだんだんと全体像がみえてくる、という構成は、上遠野浩平の常套手段だし、何冊か積み重ねてきたことで、この作品世界に厚みが出てきていることも、いい方向に作用している。
残酷号の素体となるサトル・カッツの「真の動機」も、明かされてみればいかにもこの人の作風らしいし……第一、主要登場人物の大半が、死者ないしは過去の人物の意志に縛られ、その慣性に縛られて行動している……というあたりの身も蓋もない状況に、虚しさを通り越して奇妙な爽快感さえ覚えてしまう。
特定のイデオロギーとか「括弧入りの正義」を素直に信奉できなくなった今なら、こういうヒーロー像もかえって説得力が出てくるのか。