鴨川ホルモー

鴨川ホルモー (角川文庫)

鴨川ホルモー (角川文庫)

序盤、より正確にいうと、最初のホルモーがはじまるまでは正直、乗れなかったのだが(だって、所詮大学生の惚れた腫れた、みたいな話しでしかないし。しかも加えて、主人公が超ど級に鈍感、とセオリー通りの設定で……主人公が気づかないうちから、読者は周囲の人間の思惑に気づいて気を揉む構造になっている)、ホルモーがはじまってからは俄然面白くなる。
鬼だか式神だかの生態とか次々と明かされる契約やルール、十七条発動によるサークルの強制分割、意外な人物の意外な才能……などの要素が、いちいち面白い。
阿部は、この物語の「語り手」ではあるけれど、本当の主人公は楠木ふみなのではないか?
いや、さらにいえば、一番面白いのは、鬼たちと人間との間を統べるルールとか規律みたいなもので、普段は目に見えないし感じられないものが、何かの拍子に目に映るようになる……というシュチュエーションのが、大学生たちの群像劇よりもよっぽど面白いか。
そうとは意識しないうちに、あるシナリオに従って動いている……という可能性は、終盤で明示されるわけだし……これって、普通は「運命」とかいわれている概念を肯定しているわけで、主人公たちはあらかじめ規定されたシナリオ通りの行動を知らず知らずにとっている……という解釈も、できる。
演劇的、というか、儀式的、というか。
そう思えば、「大学生」というごく限定された時期だけ鬼たちを使役できるようになる……という設定も、なるほど、と頷ける。
おそらくホルモーは、相撲や神楽舞がかつてそうであったように、神前に奉納されるための儀式だったのだろう。
たしかにこれは、日本の文化的な風土にしっとりとくる構造になっているよな。