岩佐又兵衛

浮世絵をつくった男の謎 岩佐又兵衛 (文春新書)

浮世絵をつくった男の謎 岩佐又兵衛 (文春新書)

戦国末期に有力大名の子として生まれたものの、両親は信長によって刑死。他家に養子として出され、長じて江戸初期を代表する絵師として活躍する。
なるほど、経歴をたどれば、いかにも伝奇小説の題材になりそうな人物ではあるな。
この本の一番大きな特徴は、新書サイズであるのにもかかわらず、豊富に挿入されているカラー図版。まず、これがだいたいのところ「本物の迫力」に満ちていて、大変よろしい。もっとも、本文によりとこの岩佐又兵衛という画家はまだまだ経歴に不祥な部分が多く、この本に収録されている「又兵衛作」とされている絵の真贋も、今後、ひっくり返えされる可能性もあるだが。
本文としては、岩佐又兵衛という人物の紹介、岩佐又兵衛とされる絵のかなり詳細な解説。岩佐又兵衛作がこれまでどのような評価を受けてきたのか、という歴史的な事実の紹介……などが、主なものとなる。
京都から出発して、福島、江戸と遍歴していく又兵衛の生涯もなかなかドラマチックではあるけど、図版として付された絵と、おのおのの絵に関する詳細な解説が面白い。この時代の絵だからおおよそ写実的ではないわけだけど、ディフォルメの効いた、時に残虐な描写も多くする画風は、どこか劇画チックな感性も伺わせる。
「浮世画家の元祖」の一人ということだけど、又兵衛の時代はまだ版木刷りが発達していなかったから、印刷物ではなく屏風絵とか絵巻物とか、大きなものが中心。工房で多人数を使用しての制作は、普通にしていたらしいけど、こういうところもどこか現代のマンガ家とアシスタントの関係を連想させる。
見応えがあるカラー図版と詳細な解説が一体となって、値段以上の価値は十分にある一冊だと感じた。