エンジン・サマー

エンジン・サマー (扶桑社ミステリー)

エンジン・サマー (扶桑社ミステリー)

ああ。これもねえ……1990年12月って、もう二十年近く前になるのかよっ! まあ、最初に訳されたその当時、ハードカバーで購入してすぐに読んでいるのだった。懐かしい。
でも、そんだけ間があけば内容はほとんど記憶していないし、訳もかなり改まっているようだし……第一、この作品が滅法面白い、ということは事前に知っているもんで、今回の文庫版も改めて買って読みました。
この手の「昔触れたなにがしかの作品」の記憶というのはたいてい美化されるもので、当時それなりにこの作品についても、読む前は「実は、たいしたことのない内容なのではないか……」という疑念もあったりしたのだが……いや、杞憂でした。
覚えていた部分、覚えていなかった部分、両方を含めて、大変に面白かった。
巻末の「訳者あとがき」にも触れているように、この作品は「語り」の構造的に何十もの仕掛けが施されている。時折、主人公と会話して話しの先をそくす「天使」とか、主人公は、どこで、どのような状態で「この物語を語っているの」……とか、そういうのは、漫然と読み進めているだけでは、なかなか理解できないだろう。ただでえ、ファンタジー風の……われわれの世界とはまったく違ったロジックで動いている世界だ。
それで、最後の最後に、天使と主人公の会話で、かなり壮大な「種明かし」がなされて、主人公もろとも愕然とさせられる……と、同時に、突き放される……この、独特の、読後感。
いや、そういう「仕掛け」を抜きにしても、奇妙な風俗とか主人公とヒロイン、ワン・ス・ア・ディとの関係と冒険を素直に楽しむのも、それはそれでいいんだけど……。
それでも、やはりこの「仕掛け」が十全に理解できた時に感じる「寂しさ」は、何物にもにも代え難い。
ユニーク。