不全世界の創造手

不全世界の創造手(アーキテクト) (朝日ノベルズ)

不全世界の創造手(アーキテクト) (朝日ノベルズ)

よかった。
この人の作風はイマイチ安定していないところがあって、たとえば少し前にでた短編集「フリーランチの時代」なんかは、テーマだけを突出させた生硬な作品が多くて、正直どうにもいけない一冊だった。
で、この一冊もしょっと警戒しながらはじめたわけだが、これはいいね。素直に。
冒頭、十二歳の少年が自己複製機械を造ってしまう……という、ある意味、とんでもないシーンから開幕して、「成長の可能性を見抜く」とかいうとんでもなく反則なカナダ人少女が五年後に出資者として現れて……というあたりの店舗の良さ。
まあ、こういう小説だからご都合主義的な展開は多々あるわけなのだけれども、強国のエゴ、あやうい世界経済、発展途上国の現状、グローバリズム……等々、たぶんに今日的なテーマを、あまり堅苦しくならない程度に取り入れているのも、面白い。作品の舞台的には、日本の片田舎ではじまって、なにげに世界中を股に掛けているな。
土木工事や農業開発が世界を救っちゃう、というのはまったくその通りだと思う。食料になる農産物や水、それに国土の確保がなされれば……つまり、最低限、生きるのに筆よな用件が確保できれば、世界の有り様は確実に激変するし……おそらく、世界の総生産性は、格段に向上してくる。まあ、前提となるUとかHOEとかのファンタジーが、今の時点では限りなく夢物語に近いのだけど。
そういう(ある意味では、地味で泥臭い)シミュレーションをラノベのメソッドでやってしまった、というのは、結構すごいことなんじゃないだろうか?