私たちがやったこと

私たちがやったこと (新潮文庫)

私たちがやったこと (新潮文庫)

訳者名だけ確認し、中身についての予備知識をまったく持たない状態で購入、読み進めた。
それで……微かな違和感。なんだ……これは?
とか思いつつ読み終えて、巻末の「訳者あとがき」を読んで、「ああ。そういうことなのか」と納得。
この人はどうも、同性愛カップルの心情を主題することが、多いようなのだな。
「結婚の悦び」とか、表題作「私たちがやったこと」に関しては、そういう予備知識を持って読むのとそうでないのとでは、読後感がかなり変わってくる。特に翻訳の問題で、言葉遣いなどから「男女のカップル」としか読めないのか、それとも「女性同士のカップル」としても読める文体なのか……で、読む側の印象も、かなり変わってくる。
かえって、女性同士ということが判然としていて間違えようがない、「アニー」のような作品の方は、そうした(読む側の)揺らぎやぶれがあまりないのだけど……。
収録作のどれもに、とても繊細な印象を覚えるのだが、特に同じゲイである友人を看取る「よき友」は、圧巻。ほかの作品に見られる幻想的な味付けがなく、リアリズム一辺倒で描かれているこの作品は、アメリカ社会で同姓者が置かれている立ち位置や状況が、とてもリアルに描かれていると思う。おそらく、著者レベッカ・ブラウンのホームケア・ワーカーとしての経験が下敷きになっているだろうが……死に至る病を得たゲイ男性とその周囲の人々、を淡々と描くだけで、これほどの読みごたえが発生するとは。
本国の方でも「レズビアン作家」的なレッテルが貼られているそうだけど、そうした側面だけで評価するのは、やはり底が浅い評価だと、一冊通して読んでから、思った。この人は……結構、普遍的なことを描こうとしているし、描くことに成功している。表層的な性行や指向とは、あまり関係がなく。
薄いけど、なかなか凝縮された一冊だった。