河岸忘日抄

河岸忘日抄

河岸忘日抄

うん。こういう小説もあるのか。あるな。考えてみると、この著者の既読の作品と、感触的にはさほど変わらないわけだし。しかし、見事に、ほとんどイベントらしいイベントが起こらない小説だ。いや、厳密にいうと、いくつかの出来事は、起こることは起こるのだが、それよりも、その出来事によって主人公が想起する過去の出来事や本、映画、音楽……などに関する考察が大部を占める。
自分が読んだことがある小説や見たことのある映画の話題が出てくると、自然と頷いていたり。
主要登場人物は、主人公。大家。郵便配達夫。枕木さん(回想の中で登場)。
その他に、それほどの登場頻度はないけど、鮮やかな印象を残す多数の人びと。
隠棲、踏みとどまること、あえて明瞭に見ないこと、待機し続けること……。
静かだけど、それだけに多面的で、受け止め方に多様性が発生する。
動かない船の乗って思索を続ける主人公の意識に同化して、ゆらゆらと意識を漂わせる感覚。
なかなか面白い読書体験だった。