#35

行きつけのコンビニのレジに、不可解な小箱が置いてある。そんなところに置いてある以上、それも商品なのであろうが、その箱の上には「時価」と書いてあるプレートが置いてあるだけで、中身に関する説明は一切ない。
常々、不思議に思っていたその商品について、ある時、意を決して店員くんに尋ねてみた。
「あの……これは?」
「これは……愛っすね」
「……愛?」
「それも、無償の愛っす」
「……無償の愛……」
少し疲労の色が見えるバイトくんの答えを、呆けたように鸚鵡返ししてしまった。
何かいわくつきの商品であるとは思ったが、まさか、そういうものだったとは……。
「こういう世の中ですから、それなりにお買い求めになる人はいらっしゃいます……」
そのような質問を受けることが多いのか、バイトくんは意外に流暢な口調で説明をしはじめる。
代金を支払うと、二十四時間以内に「無償の愛」とやらが届けられるらしい。
しかし、ものがものなので、実際の内容は注文主により千差万別。よって、固定した値段はつけられない……ということらしかった。
「……うーん……」
説明を受けて固まってしまったのは、自分が注文した際、実際に届けられる内容とその対価とが、容易に想像できなかったからだ。
そもそも、代金を払って入手するわけだから、その時点で「無償の愛」とは呼べないだろう、とも思うわけだが、おそらく、そういう「商品名」なのであろう。
行きすぎたサービス産業と貪欲な資本主義、ここに極まる。
長い間の疑問が氷解したのはいいが、結局わたしは「無償の愛」を買うことなく、いつものように帰宅した。


はてなハイク超短編より転載。