蝶のゆくえ

蝶のゆくえ (集英社文庫)

蝶のゆくえ (集英社文庫)

橋本治の短編集。
「ふらんだーすの犬」、「ごはん」、「ほおづき」、「浅茅が宿」、「金魚」、「白菜」の六編を収録。
どれも非常に読み応えがあるのだが、やはりこの人は「文学の人」というよりは「文芸の人」なのだな。近世から視線で近代以降の「現代」を冷徹に見つめている、というか、登場人物一人一人の思想や心理を理詰めで演算して書いているような凄みを、所々で感じた。
その感じ方が決して錯覚ではないことは、巻末に収められた「自作解説」の詳細な分析を読めば、よく理解できる。
そこには、

「女にとって、母とはいかなるものか。家とはいかなるものか」という問いをたてて、橋本はその答えを出さない。答えを出すことが小説なのではなく、問いを出すことこそが小説であると理解した結果である。

という一節があり、多いに共感もし、理解もした。溜飲が下がった。
この人はやはり、基本的に「思索の人」であり、「小説も書ける」が、その根底は「小説家」ではない。
キャリアの最初に「イラストレーター」として世にでた癖に、そういった「社会的地位」に頓着せず、やりたいことを自由にやってきた(ように、端からは、見える。実際の所はどうであったのか、外野からは判断できないけど)この人は、「表現」という行為全般を、どこかで突き抜けているような気がする。