カンタン刑

カンタン刑 式貴士 怪奇小説コレクション (光文社文庫)

カンタン刑 式貴士 怪奇小説コレクション (光文社文庫)

そういえば、式貴士の作品を、今までまともに読んでこなかったなぁー……と思いつつ、読了。
「カンタン刑」
たしかに、このカンタン刑の内容は酷い、ってぇか、残酷でグロテスクではあるけど、その描写だけ、という気もする。
味つけとしては単調で深みはない。
「首吊り三味線」
「カンタン刑」に続いて、微にいり細にいりの「見てきたよう」風の描写がメイン。
迫力はあるし、絞首刑とか猫鍋のこととか、良くここまで調べたなと関心はしたけど。
「渇いた子宮」
前二作でおなじみのグロテスク描写とエロチックな叙述が入り交じる快作。
イデアとしては一発ネタもいいところだけど、夫婦間の機微と絡めて最後は複雑なリリシズムを醸し出す。
「ヘッド・ワイフ」
これも、タイトル通りのアイデアを何のひねりもなく展開しただけ、ともいえる内容なのだが、終盤の官能的な描写がなんともいえない哀切さを感じさせる。
「おれの人形」
自分の特殊能力をひたすら即物的な要求の実現に使用して悪びれることのない主人公の「語り」がひたすら乾いていて、これだけドライだともはや嫌悪感も湧かない。いや、やっていることは、すっげぇ非道なことなんだけど。
絶対に認めなくなくても、こういうのも愛情の一形態ではあるだろう。
巻末の「改題」では、乱歩の「盲獣」と比較されていたけど、もっと近いのは同じ乱歩でも、「芋虫」の方なのでは?
「マイ・アドニス
即物的な官能性よりも、もっとメンタルな嘆美趣味が前面に押し出された作品。
本書の中で唯一の女性主人公の一人称。
「血の海」
これも、ワン・アイデアを突き詰めていった末、展開される世界を描いた作品。
ここで提示される新世界のインパクトも去ることながら、主人公夫婦のあっけらかんとした、健康すぎるほどに健康な精神性に、読んでいて頭がクラクラしてくる。
「アイス・ベイビー」
あいがいにグロテスクな描写が目白押しな本書の中でも、この作品が一番インモラルな内容だったな。
設定とかストーリー展開とかに、いちいちタブーを壊す仕掛が施してある。
真面目な人は、絶対に読まない方が無難です。
「メニエール蝉」、「塵もつもれば」
ショートショート
まあ、この二作は、短いだけではなく、この作者でなくても書ける程度の凡作だと思う。
「鉄輪の舞」
なんだかんだいって、心理描写ということでいえば、本書の中ではこれが一番か?
本書に収められている作品の登場人物の新城については、比較的ドライに描かれていることが多いのだが、この作品に関しては、唯一、病的ともいえる「執着」というか「妄執」が、正面から描かれている。
「東城線見聞録」
何というか、駄洒落や語呂合わせによって異化した東京(特に東武東上線沿線)案内。
ディテェールはそれなりに緻密に描かれているけど、ただそれだけ、って気もする。