リピート

リピート (文春文庫)

リピート (文春文庫)

この人の本を読むのは、これで二冊目だったかな。前に読んだ「イニシエーションン・ラブ」は、読んでいる途中で作品の構造というか、目指しているところが分かっちゃったから、正直、十分に楽しめた、とはいいがたかったのだが、今回の「リピート」は、「リプレイ物」という趣向への興味と、それに、同時に十人の人間が意識を過去に飛ばす、すなわち、登場人物がそれだけ多彩で多くなる、ということで、厚さの割には最後まで作品への興味を持続しながら読み終えることが出来た。
急遽、電話で呼び集められた十人の男女は、いささかカリカチュアライズされて描写をされているものの、「意識だけ十ヶ月分、過去に遡る」という事態にたいして、それなりにリアリティのある反応をしている。なにせ、本文の半分近くを費やして、「そんなことが起こり得るのかどうか?」というかなり詳細な議論を登場人物たちにやらせているわけで、実際に過去に飛ぶのは、後半になってから。そこまで懐疑的な態度をとっているからこそ、「意識だけのタイムリープ」ともいうべき、火日常的な現象にリアリティが生じることにもなるし、前半の議論だけも結構面白かったりする。
過去に戻った後半戦も、通常のタイムリープものなら、「いかに過去を改変していくのか?」というのが主眼になってくるわけだが、この作品の場合は、一緒に過去に飛んだ人々が次々と事故や事件に巻き込まれて命を落としていき、それどころではなくなる。
本当に偶発的な事故や事件なのか? などの疑問もでてきて、残りのタイムリーパーたちも疑心暗疑になりはじめ、かなり特殊な状況下における「変則的なクローズドサークル物」として進行する後半は、特殊な状況さることながら、次々と二転三転する展開がともかく面白くて、一気に読み終えることが出来た。
若干、主人公の行動原理や性格がはっきりしない、というか、「物語にとって都合のいい選択しかしていないんじゃないか、こいつ?」という疑念は拭えなかったけど、そういうことも含めてかなり楽しめた作品だったと思う。
巻末の大森望氏の、詳細すぎる「解説」も、圧巻。SFやミステリ作品との比較はともかく、まさかこういう作品の解説で、スクデイが語られるとは思わなかった。