枯葉の中の青い炎

枯葉の中の青い炎 (新潮文庫)

枯葉の中の青い炎 (新潮文庫)

いまさら、わたしごときが指摘するまでもないことだが、やはり巧い。
冒頭のニ編、「ちょっと歪んだわたしのブローチ」と「水入らず」は、かなり奇妙で何とも類例のない味わいがある作品。どちらも、男女関係のもつれを扱っているわけだが、それだけでは終わらず、複雑な技巧が幾重にも張り巡らされている。
「日付のある物語」は、昭和戦後史の中で有名ないくつかの事件と語り手のプライベートな「日付のない物語」とが交錯した複雑な構成をするりと読ませる佳作。
「ザーサイの瓶」は、金魚を起点として著者の別作で語られたあるエピソードを別の切り口から見せたりする。
「野球王」と表題作、「枯葉の中の青い炎」は、どちらも「野球」に関する比率がそれなりの比重を占めるわけだが、むしろ、野球以外の部分のが断然、面白い。「野球王」は、うちに強さを秘めた孤独な男の風貌が、「枯葉の中の」は、実在のプロ野球選手の履歴の合間を縫って繰り出される奇想が、それぞれに印象に残る。