“文学少女"と慟哭の巡礼者

“文学少女”と慟哭の巡礼者 (ファミ通文庫)

“文学少女”と慟哭の巡礼者 (ファミ通文庫)

直接的な「感想」というよりは、もっと広範な「ミステリ小説的な趣向」に関するメモとして。
いわゆる、ミステリとカテゴライズされるフィクション群の中で「探偵」と目されるキャラクターに期待されるのは、「失われた秩序を回復する」役割である。明晰な頭脳とかマッチョなタフガイとか、探偵役の性格付けにより解決方法のアプローチは異なってくるわけだが、「ある事件が起こり、乱された(作品内)世界の秩序を、平穏なものに復旧する」ことが、「探偵」の役割であり、この探偵の役割を、本シリーズの中では「文学少女」が担当する。
ライトノベルのレーベルで出版されていることからもわかるように、このシリーズでは、その「探偵役=文学少女」も、シリーズを通した「語り手」である「心葉」、それに、その他の登場人物たちにも、それぞれ過剰なまでの装飾が与えられ、血肉をもった立体感のある人物造形が施されており……この「慟哭の巡礼者」では、ともかく無駄な登場人物がいない、見事な「群像劇」として結実している。
いや、本当。流人とか竹田さんみたいなキャラクターまで総動員して、ここまで必然性のある展開を組み立ててくるとは予想していなかった。シリーズ通して、丁寧に布石を打ち、伏線を敷いていたのだなぁ……。
他のキャラクターが厚みを獲得し、存在感を増した分、肝心の「文学少女」の影が薄い……というか、この感だけみると、オートマティックに都合良く自体の収拾を図る「機能」にしか見えなくて、やはり影が薄く見える。
内容的には、「銀河鉄道」というよりは、やはり「春琴妙」の本歌取り、なんだろうな、これは……。出てくる誰もが自意識過剰だし、内容的にもすごい「青い」のだが、このレーベルがターゲットにしている読者層からいえば、これで正解なのか。