「クレージーカンガルーの夏」と「クレイジーフラミンゴの秋」

クレイジーフラミンゴの秋 (GA文庫)クレイジーカンガルーの夏 (GA文庫)一応、「GA文庫」というラノベのレーベルから出ているけど、これ、ごく普通の小説。それも、オールタイムベスト級の佳作ですよ。いや、この本の主人公、須田広樹や菅野晴と同じ「現役の十三才」にとってはどうかわからんが、いい年をした大人の読者にとっては。
「1979年」と舞台となる時代を明確に指定していることには、実はあまり意味がない。「大人の都合」によって子供が振り回される、という、本来的な部分での困難さ、というのは、時代にあまり左右される物でもないと思うから。
ただ、舞台となる地域社会やポップカルチャー、大人たち一人一人の事情や考えを、誤魔化さずに詳細に描写することで得られる効果、というのは確実にあって、結果として「子供を振り回してしまう大人」にもそれぞれ事情とか思惑があるんだよ、ということをしっかりと描くことには、やはり意味がある。
例えば、「カンガルー」の方で、主人公のいとこが家出して、離婚した母親に会いに行くシーンの、母親の対応なんか……「物語の流れ」的には、もっと「優しい」方が絶対に盛り上がるのだが、この作品では、あえてそうはしていない。でも、この時の母親の反応というのは……やはり、リアルなんだよな……。