人魚とビスケット

人魚とビスケット (創元推理文庫)

人魚とビスケット (創元推理文庫)

あー。なんとなくタイトルから受け取る印象をこれほど裏切る内容というのも珍しいかな。リリカルでもメルヘンでもない。
冒頭、新聞の三行広告でやりとりされる内容が「謎」としてまず提示され、その広告を出した人たちに接触しようとする語り手。
そうした件を忘れかけた数年後に、思いもかけずに接触して来た人々。彼らの口から語られる当時の事件。男女四人での漂流記の顛末。
最後に、ちょいとした謎解きいくつかとか人魚の正体とか……という、割と凝った構成なんだけど、中盤の漂流記の部分、人間関係がどんどんギクシャクしていく過程がスリリングで面白い。
戦時中なもんで、日本の潜水艦がひょっこりとあらわれて、助けてくれるかと思ったら、作戦行動中だから非戦闘員は乗せられない、とそのまま放置されたり、そのあとで「おれたちが乗っていた船を沈めたのはあいつの魚雷だ」だとかいいあたり、といったエピソードや、危うーい人間関係を唯一の女性である人魚があの手この手でバランスとったり、といった細部がいいなあ、これ。
一種の極限状態にあるんだけど、そんでもって、ここまでギリギリの状態になったら、十中八九の人たちは絶望するか仲たがいするかして自滅するだろうけど、そうならないよう、本当に際どいラインを形成するように、うまーくエピソードを繋げている。
海洋を舞台とした小説としてもよく出来ているし、なんというか、綱渡りぐあいがちょうどいい。