安徳天皇漂海記

安徳天皇漂海記 (中公文庫)

安徳天皇漂海記 (中公文庫)

これ、ぶっちゃけ、初めの方はあんまり乗り切れなくってさぁ、いや、江戸とか室町の頃だとなんとなくわかるんだけど、源平の頃はちょっとね。丁寧すぎる文体もこっちの性にあわなかったし、正直、ノッテくるまでに時間がかかったな。
古近和歌集の歌なんか引きつつ、三種の神器がどうのこうのやっているあたりは、ちょっと退屈だったな。出てくる文物がこちらにとって馴染みがない、ってあくまで読者であるこちら側の理由で。
面白くなってくるのは、唐船がでてきて、「もうひとりの幼い帝」がでてきて、安徳天皇と、大昔の大陸と本邦の歴史や人物が時空を越えてオーバーラップしていくあたりから、俄然面白くなってくる。
スケールが大きくなってくる、作品世界がガッと広がっていくというのと、いろいろな仕掛けを施して、「本来ならであえるはずがない」ものや人物を邂逅させていくのは、やはりフィクションだけに許された自由さ、快楽だ。
そんで、いろいろあって終盤にさしかかると、「あ、これは確かに渋澤の高丘親王航海記のオマージュだわ」と腑に落ちるのであった。
高丘親王航海記 (文春文庫)

高丘親王航海記 (文春文庫)