シンギュラリティ・スカイ

[読了]シンギュラリティ・スカイ

シンギュラリティ・スカイ (ハヤカワ文庫SF)

シンギュラリティ・スカイ (ハヤカワ文庫SF)

読みはじめてしばらくしてから、「あっ。この感覚、ちょっと覚えが……」とか思っていたら、少し前に読んだ「アッチェランド」と同じ著者だった。執筆順でいうと、こっちのが先だけど。
第一印象として、ともかく情報量が多い。
なんか、古臭い政治体制の国だか星だかに「情報と引き換えに願いをかなえてくれる」携帯電話がわんさか降ってきて、このままでは現政権が転覆すると携帯電話をばらまいているヤツラを討伐するために宇宙軍が派遣される。
古臭い政治体制と宇宙軍をもてるほどのテクノロジーとのあいだにかなりギャップを感じるのだが、地球人類がエシャトンと呼ばれる超AIによって半径三千光年内の宇宙に強制移住させられた歴史を持つ世界であることが徐々に明かされていく。
ドラえもんの秘密道具なみに便利な携帯電話をばらまいているのは、そのエシャトンとは別の「フェスティバル」と呼ばれる異星知性で、分子単位での物質複製技術を持っている。こっちの目的は、「物質と情報の交換」というシンプルなものなのだが、富を一局集中させることで体制を維持している旧弊な惑星国家にとっては、こうした、文字通り「降って湧いた」大盤振る舞いは、政権転覆を目的とした破壊工作としか解釈されない。
物語としては、その惑星に派遣されている地球人技術者、マーティンと国連のスパイ……みたいなもの、レイチェルのコンビを軸に、汎宇宙的な知性体勢力、旧弊な価値観と超高速航行まで可能な技術力とのミスマッチな宇宙軍ご一行、それらすべての勢力を凌駕する存在であるエシャトンなどなどが絡み合ったり衝突したり騙しあったり交易したりロマスンスしたりしながら進行する。
そうした設定の中で、魅力的だったり個性的だったりするキャラクターが続々と登場するわけで、膨大なアイデアと情報量が詰め込まれていることを除けば、この雰囲気はあれだ、往年の古きよきスペースオペラっぽいんだよな。
あくまで「雰囲気」だけだけど。
「シンギュラリティ」とは特異点のこと。
作中、宇宙軍が時間を遡って敵を殲滅する作戦を決行しようとして阻止される、というシチュエーションがあるし、物理的な意味での「特異点」でのあるのだろうが、「臨界を突破するポイント」という意味合いも兼ねていそうだ。
特に冒頭の「何でも願いをかなえてくれる」携帯電話が降ってくるシーケンスは、工業技術の発達によりフリーなものが巷にみちあふれ、経済活動の文脈が従来とは異なった世界を描いた「アッチェランド」の世界を彷彿とさせる。
「アッチェランド」は(少なくとも出発は)現在の延長にある近未来からはじまっていて、この「シンギュラリティ・スカイ」は遠い未来、遠い宇宙のお話ではあるのだけど、著者であるチャールズ・ストロスの感心が向くところは、あんまり変わっていないのね。