ファントマは哭く

ファントマは哭く (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

ファントマは哭く (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

AADDシリーズの……ええっと、三冊目、でいいんだよな。確か。
とにかく、「ウロボロスの波動」、「ストリンガーの沈黙」と背景世界を共通している連作。のうちの、一冊。もちろん、単独で読んでもなんら支障はないが、詳細なディテールを味わうには、やはり刊行順に読んでいった方がいい。
で、この「ファントマは哭く」、相変わらず大小のアイデアすし詰め状態で、えらく情報密度が濃いし、内容をまともに理解しながら読み進めようとすると、えらく時間を食う。
ウェッブと呼ばれる人口知能と半分共生状態にあるAADDの人々と、宣戦布告したものの、あっけなく武装解除されてしまった地球人たち、知性としての在り方が地球人類とあまりにも異なる群体生物のストリンガーと、ストリンガーが人類とコンタクトをとるために生み出し、そして、再統合が不可能になった大使一族のセクト、そのアンドロイド、カルレン……など、多彩なキャラクターが各々の立場でうごめき奮戦しながら議論しあい、結果的に謎の襲撃者、ファントマと向き合う……というような内容、だと思う。少なくとも、メインプロットは。
だけどしかし、この作品、幹より枝葉がとてもよく繁っている。
リアルタイムで情報を共有することが前提になっているAADD側の組織運営論、それでもなくならない偏見や差別、個人対個人レベルのコミュニケーションの当否……種族間や異文化間、あるいは、世代間、男女間の相互理解とその限界について、様々なパターンを描くことによって、説得力を持たせている。
あっと驚くファントマの正体、というのも、実にSF的な大ネタを振ってきているのだが、これ、つきつめて考えると、とてもよい「コミュニケーション/非コミュニケーション」論の例題集になっているのではないか?