サマーウォーズ

さて。
夏に観た映画だが、何となく言及しないままにここまで来てしまった。年が改まる前に、多少なりともまとまったことを書いておきましょうかね。
実に、今さらという感じもするが。
面白いといえば、たいそう面白かった。ディテールにちょっと首を傾げる描写も散見されたけど(あの数字群を見ただけで「暗号だ」と判断できるとか、外宇宙に向かっていく予定だったあらわしに都合よく余分な推進剤が残っているとか、セキュリティ担当のクジラが何の役にも立っていないとか)、おおあじな家族向けエンタメとしては、こんな大味さでちょうどいいんじゃないでしょうか?
そんでもって、仇役のラブマシーン。
当初の行動原理が「際限のない情報収集」だったのに、途中から、「特定のゲームのルールに従った上での勝利」に執着しはじめる。つまり、さりげなく行動原理が改訂されている。データ収集という目的さえ達成すれば、別にゲームのルールを守る必要はなくて、力ずくで強奪していけばいいようなもんだが、何故か運まかせな花札勝負を受けちゃったりする。
このあたりは、いってみれば、設定上のブレだか物語進行上のご都合主義でしかないにょね。
まあ、そういう瑣事でこの映画の面白さが減じるってことはないんだけど。
あのフランク・キャプラだって、どっちかといえば「こまけぇことはいいんだよ!」系でしょ?
テーマ的には、家族、っていうより、「遠くて近い、近くて遠い」親類ってクラスタに部外者の数学少年、健二くんが迷い込んで、ちょうどそのとき、世界を危機に陥れる暴走AIが現れて、「親戚一同VSラブマシーン」の戦いに巻き込まれる、といったシンプルなものなのだが、とにかく、リアルとサイバースペースの二つの世界にまたがった描写が微にいり細にいりで、一回や二回観ただけでは完全に消化しきれないくらいに情報量が多い。
ゆるやかな血縁関係と「共通の祖先を持つ」という、逆にいうとそのていどの共通点しか持たない親類たちがお盆に集まってぐだぐだするあたりの風景は、どこか見覚えがある、懐かしい感じだし、その日常が、「仮想空間でのラブマシーンの暴走」という、「見えにくい敵」に、徐々に侵食されていく様子とか、なんだかんだで親類のほとんどが、医者とか自衛官とか消防士とか警官とか、「世のため人のため」に役に立つ仕事についていて、それが物語の進行上、都合よく作用していくところとか、膨大なキャラクター群がそれぞれ、自分の性格に相応しいアバターを持っているところとか、やはり見所は多いし、何も考えずにぼけーっと見ているだけでも十分
に楽しい。
そうした動的な軸のとは別に、生まれのせいで親類の輪の中にとけこめない侘助おじさんと、その侘助おじさんを唯一理解、許容していた栄おばぁちゃんとの物語についても、十分に描写していたのも、ポイントが高い。
たぶん、これは群像劇で、健二と夏樹先輩の物語としてみてもいいし、リアルでは引きこもりヴァーチャルでは世界チャンプな佳主馬=キングカズマの成長物語としてみてもいい。
その他、登場する「誰もが」主役であってもおかしくない構造を持っているから、侘助おじさんも単なる敵役ではなく、「高スペックなダメ中年」として、憎めない人物造形がなされていることは、正解。
そのタイトルのとおり、夏らしいからっとした映画だけど……この物語終了後、栄おばあちゃんという偉大な求心力を失ったこの親類連中は、従来ほどには結束することはないんじゃないだろうか……とか思って、ふと淋しくもなった。