ハーモニー

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

面白い。実に面白い。
どうやら、前作の「虐殺器官」からさらにいくらか未来にいった同一世界……で、あるらしいことが、途中からじわじわ見えてくるんだけど……テーマ的にも雰囲気的にも、この「ハーモニー」と「虐殺器官」とは、二作で表裏一対、という感じがする。どちらが表でどちらが裏かはよくわからないけど。
虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

アメリカの工作員が主人公で、作品全体がマッチョな臭いを放っていた「虐殺器官」。
シライシユウコの洗練された、繊細なタッチの表紙イラストと女性主人公が中学時代のことを回想しながら物語が進行する「ハーモニー」。
主人公の性別と作品の雰囲気だけではなく、テーマ……というより、「問題の解決の仕方」も、まさに正反対なのだった。
どちらの作品も、世界を変革することで根本的な問題を解決しようと試みるのだが……「虐殺器官」はハード的に、「ハーモニー」の方はソフト的に……ああ。多少なりとも詳しい説明をしようとすると、ネタバレになってしまう。
読みはじめてまず引っかかる……人によっては、面食らうのは、本文中のそこここにメタタグが入ってくること。
例えば、


「ただしっ!」

といった具合に。
この世界が、おそらく「虐殺器官」のラストで引き起こされた<<大災禍>>を生き延びた世界であり、その反動で世界全体が過剰に安全管理されている……という説明がなされるあたりで、メタタグについてもなんとなく「ああ。そういうことか」と納得しかけるのだけど、最後の最後でこのメタタグがとんでもない意味を持った伏線でもあったことが、明らかにされる。
主人公が、つ事件をきっかけにして、中学時代の「一緒に自殺を試みようとした」級友御冷ミァハが捜査線上に浮かび上がり……と、物語的には「事件を追う主人公、実は追われる側が主役」という構図なのだが……この、陰の主人公、御冷ミァハが単なる中二病キャラではない、ということがあきらかになってからの展開がすごい。
ストーリーもテーマも、実にシンプル。ただ、見せ方やディテールが実によく練られていてぐいぐい引き込まれる。
暴力や死の予感が病的なまでに排除された善意的な世界と、それらが剥き出しのままあるがままにある粗暴な世界との狭間にあって、強烈な存在感を示す御冷ミァハが、最後には世界を変容させてしまう……というラストは、是非はともかく、説得力は、とてつもなく、ある。
ちょっと、ホモ・ゲシュタルトとかオーバー・マインドとか、古くさい概念を少し連想したけど……人類に救済があり得るとすれば、こういう形でしかないのではないか? と、ふと思った。
こういう状態を指して、「救済」とするのには、反対する人も多いだろうけど。