地球が静止する日

公式: http://movies.foxjapan.com/chikyu/
想像していたよりも地味目の味付けで、CGとかSFXよりもシナリオに力を入れた演出だったな。
これ、原作の短編小説は読んでいるけど、モトネタになった旧作は未見。で、かなり古めのアイデアを果たしてどのように料理するのかな……という興味を持って観にいったのだが……なるほど、こういう感じにしたのか、という感じ。
↓旧作版

↓原作の短編小説はこちらに収録。原作は、シンプルなアイデア・ストーリー。この本には他に、ブラッドベリとかスタージョンの短編も収録されているので、意外にお買い得だったりする。未読の方は是非どうぞ。
地球の静止する日―SF映画原作傑作選 (創元SF文庫)

地球の静止する日―SF映画原作傑作選 (創元SF文庫)

なんというか、基本、あんまりSFではなくて、どちらかというと人間ドラマに比重を置いているのね。
宇宙人だか宇宙人の人造人間だかよくわからないエイリアンがキアヌ・リーブス、キアヌとメインで絡む女性科学者がジェニファー・コネリーというキャスティング。感情の起伏がない演技をしているのか、それとも演技がうまくないのか判然としない役を、キアヌ・リーブスが好演しておりました。この人、あまり喜怒哀楽をはっきり表さない役が多い気がする。
で、キアヌ・リーブスとジェファー・コネリーが並んでスクリーンに映っていると、いい感じに肌の荒れ具合が確認できて、いかにも普通の人々的なたたずまいになるのだよな。
で、話し自体はあれです。人間ドラマ中心。ジェニファー・コネリーと、ジェニファーの死んだ夫の息子の黒人少年の、いまいち親密になり切れていない保護者と被保護者コンビが、異質なエイリアン、キアヌ・リーブスを伴っての逃避行中にあれこれあって……という流れが、やっぱりメインなのだろうなぁ。これは。
はっきりいって、SFとしてはコアのアイデア部分で手を抜きすぎ。それこそ、これはモトネタの敬意を表してわざと陳腐な、使い回されたアイデアを開陳しているのか、って疑いたくなるくらいの手の抜きっぷり。
古いファースト・コンタクトってテーマに、人類から地球を守りにきたエイリアンって、いかにも今風の(受けが良さそうな)エコロジカルな設定を持ってきて、人類に絶望したエイリアンをどうやって説得して人類絶滅をやめさせるか……というのが、一番の焦点になるのだが……このあたりがいかにもありがちな疑似親子のコミュニケーションの問題に安易に回収されてしまうのが、なんだかなぁ……な感じだった。なんなんだ、あのベタベタさは。
CGの使い方は、なんか地味に凝っている……というか、ケレン味を出来る限り抑えて、ごくごく自然な演出になっていたので、わたしの好みにはあった。あの巨大ロボットとか巨大球体、銀色雲霞のあたりなんかは、この設定でなければ生きてこないギミックなわけで、そこいらをごまかさずにしっかりと描いているあたりは、非常にいい好感がもてた。
しかしまあ、いくらタイトルにあわせるため、といってもこのラストはないよな。機械関係が軒並み止まってしまったら、食料生産も流通も冷暖房も、もちろん、生活インフラもすべて駄目になってしまう。いまさら、人力と家畜だけが頼みの社会システムなんて構築し直せるわけがないし、仮に可能だったとしても、そういう社会が実働しはじめるまでには暴動やら戦争やら飢えやらで、かなりの割合が死んでしまうはずだ。つまり、全世界の人口は今の何分の一か……下手をすれば、一割以下になっていても、おかしくはない。
これでは、ぜんぜん「人類を救った」ことにはならないよなぁ。シナリオ書いた人、そういうところは「このラストの後」の話しとか、まるで想像できなかったのだろうか? それとも、そういう細かいこと気にしない人だけが楽しめるお手軽な消耗品エンタメと割り切って書いたのだろうか?
いずれにせよ、この作品を楽しむ人の知的レベルをずいぶんと低く見積もった流れではある。
結論。
SFを期待せずに、CGが挿入されている親子物人情ドラマを観にいくつもりで観るのが、吉。