虐殺器官

虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

なにかと話題になった本をようやく読了。面白い。予想した以上に、面白い。ひさびさに、がっちりとした骨太の作品を堪能した満足感。
911以降の世相をほんの少し誇張した近未来……という舞台は、やはりこの作品にとっては不可欠な設定なのだろうけど、そうした政治的な状況よりも、個人的には、SF的なアイデアやガジェットの方に興味を覚えた。
タイトルになっている「虐殺器官」の大元のアイデアとその活用の仕方もかなり凄いと思う(小道具もいろいろあるけど、このワン・アイデアが中心部にしっかりと据えられているからこそ、些末な部分の光る)が、グローバルな経済活動や脳死論、意味論などのさりげなく登場する雑多な要素が、「解説のための解説」に脱しておらず、物語の中でしっかりと「意味」を持っているのが素晴らしい。本当、この作品、無駄な部分がない。
筋書きや設定だけをみると、いくらでも安易な「セックス、ドラッグ、バイオレンス」的なB級作品にしてしまえるんだけど、そういう安易なところに堕っしないで、思索的な内容を盛り込んだセンスがいいなあ。