土の中の子供

土の中の子供 (新潮文庫)

土の中の子供 (新潮文庫)

中編「土の中の子供」と短編「蜘蛛の声」、収録。
前者は幼児期にシャレにならない暴力と虐待を受けてきた青年の、回想混じりのモノローグ。後者も主人公のモノローグで構成されていることは同じだが、その中に、たぶんに妄想が入り込んでいて、記述された内容のどこまでが本当のことなのか判然としない。
また、どちらも「暴力」について、それなりに比重を持って語られるが、ベクトルは少し違って、「土の中」は「過去に振るわれた暴力の影響をどう克服するのか?」という「対処」の方向性、「蜘蛛の声」は、そもそも、記述された内容のうち、どれが本当にあった出来事なのか判然としないわけだが、どちらかというと、心理的に追いつめられた主人公が暴力を振るう側だ。
どちらも、読んでいて楽しくなる内容ではないことは歴然としているわけだが、混沌とした内面の呟きや比較的、誇張がなされていない、詳細な暴力描写はやはり小説ならではなの味わい。
薄い本で、読み終わるのにさほど時間もかからないわけだが、密度の高い読書体験だった。