恥辱

恥辱 (ハヤカワepi文庫)

恥辱 (ハヤカワepi文庫)

何というか、登場人物の誰にも共感できなくて困った小説だった。
主人公はセクハラレイプで職を追われた典型的な唯我独尊タイプのインテリバカだし、その娘は娘で、自分で自分を苦るしい方向に置こうとしている潜在的破滅願望の持ち主にしか見えないし……。
主人公のセクハラ教授は、まあ、共感は出来ないが理解はできる。こういうヤツはいるよな、って。「自分の価値観が一番正しい」と思いこんで頭っから疑おうとしない、日本でいうと、段階の世代に多いタイプだ。読みやすい文章で書いているからすらすら読めちゃうんだけど、実際にこの人が身近にいたら、わたしは側にいたくない。
娘は……どうしてああいう選択をし続けるのか……というのには、とんと納得がいかないのだけど、それでも……結局、この人は、自分の「我」よりも生物として「この土地」に溶け込むことを選択したのではないか……とか……かなり無理矢理気味にだけど、納得できないこともない……。
っつうか、そう思うより他、納得のしようがない、というか……。
この娘に関しては、同じ作者の、「マイケル・K」の印象が、少し被った。「殉教者的精神を持った農民」というイメージで。
マイケル・K (ちくま文庫)

マイケル・K (ちくま文庫)

恥辱、というタイトルは、主人公のセクハラもと教授からみた、「自分自身と娘の境遇」に対するイメージ・ラベリングであるわけだけど……娘の方からみたら……強姦されて、妊娠させられて、なけなしの財産である農場も取り上げられて、意に沿わない婚姻を押しつけられて……それでも、この人は、この土地に留まり続けたこの人自身は……果たして、本当に「恥辱」だと思っていたのかなぁ。
むしろ、そこまで粉砕されたことで、かえってこの土地にとけ込めた……いや、自分自身は無理でも、これから生まれてくる子供は、完全に「この土地のこども」だと、かえって納得しているような節もあるし……。
ああー……。
やっぱりこういう、加害者とか被害者とかいうカテゴリが曖昧になっている人のメンタリティというのは、どうにも理解が出来ない。