村田エフェンディ滞土録

noraneko2007-07-25


同じ著者の手による、「家守綺譚」の姉妹編……というか、同じ世界の話し。ただ、「家守」がだいたい百年前の日本を舞台にした「綺譚」であるのに対し、こちらは、ほぼ同時代でも、舞台を国外に移している。また、主人公の村田エフェンディ(エフェンディ、とは学問を修めた人=先生といった意味合いの敬称)さんも考古学の勉強のため、トルコに留学した人で、終わりの一部分をのぞいて、物語の舞台は国外である。また、登場人物も、国籍、人種、宗教がばらばらな外人さんがほとんど。もちろん、そうした設定であるだけに、当時の「留学生日本人同士のネットワーク」も、さもありなん的なリアリティを守って描かれている。
でも、作品を包む「空気」は、ほとんど「家守」の時と変わらない。日常があって、そこから少し外れた、「日常」と地続きの「怪異」がある。
「家守」との違いは、この「村田」の方が、「家守」の時にはあまり感じなかったノスタルジイを強く感じること。これは、「約百年前の出来事」という設定のほかに、「異国」という場所的な距離感、それと、物語の終盤で、青年だった主人公が、所帯を持った晩年の姿が描かれるところにも、関連があろう。
「家守」は、主人公にとっては、「現在進行形」の物語だったが本書は、読み終えると、主人公が「晩年から若い時分の自分」を振り返る物語になっている。
だから……あそこで、オウムが日本に届けられるのは、「効く」よなぁ……。

村田エフェンディ滞土録 (角川文庫)

村田エフェンディ滞土録 (角川文庫)