白き狼の息子

白き狼の息子―永遠の戦士エルリック〈7〉 (ハヤカワ文庫SF)

白き狼の息子―永遠の戦士エルリック〈7〉 (ハヤカワ文庫SF)

冒頭でいきなり、前巻まで主役格で頑張っていた夫妻がおじいちゃ、おばあちゃんになっているのをみて、かなり戸惑う。時折、(おそらく架空の)詩歌や書物の引用、別の視点などが混入するが、本書はだいたいのところ、フォン・ベック夫妻の孫娘の視点で語られる。二十一世紀初頭、西ヨークシャーのイングルトン(つまり、かぎりなく現代に近い世界)で主人公の少女が、壮大な背景を持つ陰謀劇に巻き込まれ、異世界へと連れ去られる……という、ちょっと古めの「子供向けファンタジー」のフレームで開幕する。
後になるにつれて旧知の人物たちがぞろぞろ登場し、見知ったグロテスクな舞台世界(なんと、「ホークムーン」の世界に主要人物が移動し、そこで最後の決戦になる!)がでて……と、予備知識があればあるほど面白い感じになるのだが、既知の事物でもだいたいが「何も知らない現代少女の視線」で語り直され、説明付けをされるので、ここから読みはじめても(たぶん)問題ない。
しかし、この本は、うまい具合に史実と虚構を混濁させる機構を備えている。なるほど、ファンタジー的な舞台や世界になじんでしまった「現代の読者」相手ならば、このような仕掛けも十分に機能するだろう。
あと、ホークムーンの世界は、敵方の暗黒帝国勢が奇怪な動物の仮面をかぶっていたり(あんたらは、制裁征服をもくろむ特撮系悪の組織ですか)、オーニソプターみたいな「ドラゴン以上にあるわけねーじゃん!」といいたくなる機械が当然のように飛んでいたりするので、翻訳されたエターナル・チャンピオンの中ではかなり戯画的なイメージを持っていたのだが、作中登場人物の口を借りてしかじかと説明されたり、カリカチュアめいた悪役たちの人物像も新しい視線から見直される、という手続きを経ると、それなりに血肉を持った存在になる。
「訳者あとがき」よると、ホークムーンの世界は、シリーズ中もっともこの現実世界に即した世界なのだそうだが。
同じく、「訳者あとがき」によると、この後、「エレコーゼ」、「フォン・ベック」、「コルム」などのシリーズも続刊予定とか。エレコーゼとコルムは、既刊分の再編集版、といったところだろうけど、「フォン・ベック」って昔、ハードカバーででていた「墜ちた天使」のことか? あれ以外にも、あの一族の話しがあるのかな?