琥珀枕

すっげぇハイクオリティな短編集だった。
冒頭の、

東海郡藍陵県の県令の息子、趙昭之の塾師はすぽんの徐庚先生である。

という一文に、まずやられた。
飄々としたユーモアが漂うばかりでなく、この一文で作品世界の定義もしっかりと印象づける、秀逸な書き出しであると思う。
解説にあるとおり、志怪小説の流れを汲む幻想とミステリの要素が絶妙にブレンドされている。わりと血なまぐさいエピソードが多いのに、さほど凄惨な印象を受けないのは、昔の中国が舞台になっている、ということのほかに、十二歳の昭之の視線を通して事件をみているので、その距離間が一種のオブラートとして機能しているからではないか?
徐先生の他に、人面瘡だとかの怪異がごろごろでてくるのに、事件そのものは金目当てとか痴情のモツレとか、なにかと下世話なのがなんか人間くさいし。それに、前述のオブラートがうまく機能して、読後感がどれもさっぱりしていて、後味が上品。さらにいうと、勧善懲悪の世界観でないのも、リアリティがあっていい。悪党がうまく逃げ押せて幸福な余生を送りました、というエピソードもあるし、この作者さんのまなざしは、悪党にも善人にも等分に注がれている気がする。よく言えば、公平。悪くいえば、冷酷だと思う。
一つ一つのエピソードに趣向を凝らしていて、マンネリや中だるみもないし、かなりそつなく仕上がったエンタメ作品だと思います。

琥珀枕
琥珀枕
posted with 簡単リンクくん at 2006.11.25
森福 都著
光文社 (2006.11)
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