シュレディンガーのチョコパフェ

シュレディンガーのチョコパフェ (ハヤカワ文庫JA)

シュレディンガーのチョコパフェ (ハヤカワ文庫JA)

「まだ見ぬ冬の悲しみも」というタイトルで、早川Jコレクションの一冊として出版された内容に、短編「七パーセントのテンムー」を加えて改題、文庫化。
以下、各作品の感想を簡単に。
「シュレティンガーのチョコパフェ」
読んでいて気恥ずかしくなるほどのヲタク参加ぶりに違和感を覚えたり。ディテールは面白いんだけど、今のヲタクって、こんなに被虐的か思考するかなぁ……と、違和感を覚えてたら、やはり、原型はかなり昔の作品ですかそうですか。1985年に同人誌に発表、なら、この作品を構成するメンタリティもそれなりに納得ができる。
しかし、主人公のご都合主義っぷりと溝呂木さんの悲惨な状況との違いっぷりは、ちょっと可哀想になるくらいだなぁ……同じヲタクなのに。
「奥歯のスイッチを入れろ」
ハードSFの技法を踏まえて書かれたB級SF。ここまでベタにやってくれると、もはや快感。新しい発想とかオリジナリティは、全然ないんだけどねぇ……。十分、面白い。
「バイオシップ・ハンター」
これは「奥歯のスイッチ」とは違って、特異なアイデアとシュチュエーションをきっちりと際だたせた作品。
「生きている宇宙船」というアイデアを生かすため、設定とテーマとがかなり丁寧に造り込まれている印象。
堪能。
メデューサの呪文」
イデアの奇抜さ、という基準で見れば、本書の中で一番群を抜いている作品。しかし、ここでもヲタクというか「ちょっと内向的で、非主流な主人公が他の俗物どもをぶちのめす」という、「シュレティンガー」と同様の構造が存在していたり。
日陰者の怨念というか被害者意識は、それなりに根深いのか。
「まだ見ぬ冬の悲しみを」
イデア的には、わたしの目にはこれが一番凡庸に思えた。タイムトラベルを扱って……特に目新しい着想は存在しないと思う。この作品の中には。
まあ、主人公の心理をトレースすることが主眼の作品だから、これはこれでいいのか。
「七パーセントのテンムー」
間違った思いこみや先入観、そこから派生する差別意識、というのは、と学会でも活躍しているこの著者にとっては、大きな関心事なのだろうが、本書の中で
それが一番色濃く現れたのがこの作品。
決して悪い作品ではないのだか、ここまでストレートにやられるとなぁ……と、読んでいてちょっと引き気味になる部分もある。
「闇からの衝動」
C・L・ムーアを主人公にして、オマージュとか邪神系の設定とか盛り込んで綺麗にまとめた作品。
器用だなぁ、とは、思った。
全般に、現代日本の作品というより、半世紀くらい前のオールドタイプのSFに近いテイストの作品が多く、読んでいてとても楽しかった。
ああ、おれ、こういうアイデアと作品全体が、離れがたく癒着しているタイプの作品が好きなんだんぁ……と、改めて実感。